〈 怪物を語るなら 〉 ページ28
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「すっごい晴れてる……」
翌日、現地時間は3月20日。
準決勝が行われる日の朝、窓の外を見やった私はふとそんなことを呟いた。マイアミは今日も憎たらしいくらいの快晴だ。
「……準備しよ」
試合開始は夜だが、試合前の練習は早い時間帯に行われる。
当然私もその様子を取材しなきゃならないし、何より今日の先発はろーたんだ。山本もリリーフとして待機するそうで、もう何が何でも勝ちに行く布陣である。
であれば当然、私も緊張するわけで。
何かと縁の深い2人だ。山本はともかくろーたんは緊張に押し潰されてやいないかと、そんなことを思ったものだけど。
「えっ、緊張？いや全然。むしろそのひっどい顔見てたら落ち着きました」
「……」
………心配して損した……。
ロッカールームにて。準備を行うろーたんにそれとなく声を掛けると、とても後輩とは思えない答えが返ってきた。何だこいつ。眉毛1本ずつ抜いてやろうか。
「ていうか何ですかその顔、青すぎでしょ。何でAさんが1番緊張してんですか？」
「……可愛い後輩が先発するからですけど……」
「はは、そりゃどうも」
無駄に爽やかに笑い、ろーたんは大きな身体をぐにぐにと曲げる。リラックスしてるようで何よりですハイハイ。
「ろーたんのこと心配してわざわざ野手練習抜け出して来たのに……」
「別に心配ないっすよ。もうAさんはお腹いっぱいなんで」
「すぐそういうこと言う」
……いや、彼がそう言うんなら私の応援なんて必要ないんだろうけど。若いのにまこと肝が据わってて素晴らしいことだ。
「も〜……、そんなん言うなら私野手練習戻るよ！いいの！？」
「良いですよ、別に」
「本当に戻るからね！」
そう念を押してみたものの、ろーたんは笑うだけで何も言わない。……心配するだけ無駄だったかもしれない。
踵を返し、私はロッカールームを後にした。
準決勝まであと数時間。もう、余裕はない。
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「………ふー」
――扉が閉まったのを見て、俺は深く息を吐いた。
彼女の背を引き留めようと伸ばしかけた手を握り、じっと目を瞑る。
いけない、だめだ。Aさんには頼っていられない。
いくら不安でも彼女に泣きついちゃいられない。弱いところは見せられない。
「……手くらい握ってもらえば良かったな」
そんな後悔が口をつく。
答えてくれるAさんはいない。仕方ないなと笑う彼女は、もういない。
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作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
