〈 球界最強投手の場合�� 〉 ページ14
.
3月17日、正午。
アメリカの地に慣れる間もなく、早速練習が始まった。
明日の全体練習と違い、今日の練習は自主参加だ。
だからかメンバーを見てみるとほとんど投手陣で、野手だと吉田さんが1人参加するだけである。さっき見たら心細〜とか言いながらお昼食べてた。可愛いね。
「あ〜つ〜い〜〜……」
「さっきからそればっかやん」
そんな中で練習に同行した私の敵はといえば、このとんでもない暑さである。
練習場の芝生に腰を下ろし、もう何度目かわからない泣き言を言うと、軽いキャッチボールを終えた山本が隣に腰掛けた。焼け死ぬよこの気温。
「だからベンチ座っとけって言ったのに」
「……ベンチはテレビカメラいっぱいいるから嫌」
「ええやん。テレビ映れんで」
「パテレでお腹いっぱいです」
けらけら笑う山本に睨みをきかせ、彼の額に浮かぶ汗をタオルで雑に拭う。
「パテレなあ」
「……あそこで私がやけに取り上げられるの、半分くらい山本のせいだよ」
「えー、しゃあないやん。いっつも一緒におるし」
「今後カメラの前では山本に近寄らないようにしよ……」
なんて。
そんな溜息混じりの言葉も、冗談めかしてばかりじゃいられない。
「近寄ってくれないん？」
「そうだよ」
「俺がおらんと何もできんのに」
「もう良い大人だよ、私」
ここ数日で痛感したけれど、そろそろ同期離れが必要な時期なのだ、と思う。
山本と颯一郎に甘えてばかりじゃいられない。
寄りかかるのも負担だろうし、ろーたんに言われたことを考えた時、男女の距離感というものが私には欠如していたから。
「そっか」
山本が零すように言ったと同時、遠くの、大きなカメラのレンズがこっちを向いているのが見えた。
もしや私たちを映しているのだろうか。大して面白いこともしてないのに。
「ね、A」
「うん？」
「"俺とお前カップルみたいに見えるんやって"」
聞き覚えのある言葉に、思わず隣を見た。
記憶を漁り、案外早く思い至る。
パテレに悪趣味な動画を上げられて約1ヶ月。彼の登板前練習に付き添った日、確かに山本は同じことを言った。
「め、………目腐ってんじゃない」
思い出せるのが不思議だ。
でもそうだった。呆れぎみにこう返した私に、あの日の山本は笑って。
「………本当にそう思う？」
――あの動画は無断で上げられたんだと文句を垂れる私に、場違いな慰めの言葉を吐いた、はずだった。
〈 球界最強投手の場合�� 〉→←〈 成長を望む20代の場合 〉
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3530人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
