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◇sideO
「ただいま」
声と言葉のギャップに違和感を感じて数秒。
あ、カラ松も悲しんで本調子じゃないのか、と理解する。
「おかえり〜その様子じゃお前も駄目か」
コクンと頷いて部屋に入ってきたカラ松。
なんてことだ、誰もA兄さんを見つけられずして戻ってきてしまった。
「……どこ行っちゃったんだろ、兄さん」
十四松の声がするりと居間に響いた。
「僕に嫌気さしたのかな、ごめんね兄さん
僕いっつも笑ってて……気持ち悪かったんだよきっと
それかそれか、野球に付き合わせちゃって──」
誰も何も言わない部屋で、十四松の嗚咽だけが聞こえた。
なんで泣いてんの、十四松。
お前はなにも悪くないだろ?
何やってんだよ馬鹿長男。
お前長男だろ、弟泣いてんなら飛んで来いよ。
違う、って。そうじゃない、って。慰めてやれよ。
俺が出てったのは十四松じゃなくて、おそ松のせいだ、って、それで構わないから。
俺が長男の重荷を分かち合えなかったから、だから兄さんは出ていった。
代わりに継がせてごめん、なんて、そんなの嘘で、同じように重荷背負ってみろよ、って。
それで気持ちが晴れるなら、俺はそれで構わないから。
「十四松、うるせぇ」
「ぐすっ、ごめ、兄さっ……あの、っ」
「十四松、お前のせいじゃねぇから。泣くな。
俺がお前の事嫌ってないのに、アイツがお前を嫌うはずがねぇ」
「う、ん……っ」
袖で顔を隠して声を抑える十四松。
マジで何やってんだよ馬鹿兄貴が。
昔なんか、十四松が泣いてなくても、呼び出し食らっただけで駆けつけただろうが。
泣いちゃいねーけどカラ松だってチョロ松だって一松だってトド松だって傷付いてんの。
皆自分を責めてんの。
なぁ、お前兄貴だろ?長男だろ?戻って来いよ。
本当に嫌なら、俺が代わるから。
俺が兄貴やるから。
頼むよ、俺だって兄さんが居ねぇとツラいんだから。
──その時、だった。
「ただいまー」
ガラガラと、玄関の扉が開く音。
そして、呑気な声が聞こえた。
6人一斉に、階段を駆けおりて玄関を見つめる。
そこには長身の、いつものように首もとが伸びてしまった黒Tシャツにくたくたのジーパンを纏った例の奴。
ぼさぼさに近い天パも、鋭い優しい猫目も、ガタイのいい体も、逆光の中こちらを見つめる姿も、今は堪らなく嬉しくて。
「テメェどこ行ってたんだよ!!」
酷く安堵している自分は、笑っていた。
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♂哀歌♀(プロフ) - シニタイさん» あ、お分かりになられました??決して赤塚先生を悪者にしようってんじゃないです!!自分でもよく分かりません!!完結後にでも答え合わせしてくださいますと幸いです。 (2016年8月7日 0時) (レス) id: 2229a4fcd3 (このIDを非表示/違反報告)
シニタイ - ♂哀歌♀さん» うぅむ…そうか、そういう事か。この小説の赤塚先生も厄介な事してくれたねぇ…夢主がかわいそうだぜ。 (2016年8月7日 0時) (レス) id: c4a2582adf (このIDを非表示/違反報告)
♂哀歌♀(プロフ) - シニタイさん» ありがとうございます!最後の最後で「あっ!」と思っていただけると幸いです(最後までまだ遠いですが(((そこまでお付き合いいただけますと幸いです! (2016年7月10日 21時) (レス) id: 2229a4fcd3 (このIDを非表示/違反報告)
シニタイ - なるほど、わからん°△° (2016年7月10日 2時) (レス) id: c4a2582adf (このIDを非表示/違反報告)
♂哀歌♀(プロフ) - 青やんさん» ありがとうございます!!私よりも夢主に近い御環境ですね……!頑張りますので今後ともよろしくお願いします! (2016年6月25日 12時) (レス) id: 2229a4fcd3 (このIDを非表示/違反報告)
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