生きたい彼女と死にたい彼。 (ページ29)

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ふたりページ29

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佐久間くんが帰った後、

必然的に久々のふたりきりになってしまった。

あんなに煩かった部屋に訪れた静寂を破った。

『…おでこどうしたの、？』

「あ、やっぱり気が付いてた？
ノーセットで隠してたんだけどなあ、。ちょっとね」

『また腕隠してる？』

「……」

左手首をぎゅっと掴んで俯いてしまった。

踏み込んでいけないとは思いつつも、

気になってしまう性分。

「そう言うAちゃんはどうなの？友達の事、解決してないでしょ？症状だって悪化してるじゃん」

チラッとこちらを見る三白眼にどきりとする。

話してないのに何度も見透かされる。

あれ以来イツメンとは進展なしで、

正直元に戻れる気もしてない。

おまけに心臓病を患っている事は話したものの、

余命宣告をされた事は一言も伝えてはいない。

『女の友情何て1回亀裂入ったら、
瞬間接着剤でもくっつかないよ。症状はたまに薬飲んで
落ち着かせてるし、今日はたまたまだし。』

「佐久間の言う通り女社会はキツいね」

今まで律儀に正座をして座っていた阿部くんが

伸びをして胡座をかく。

その時に袖の合間から見えた包帯、予想は的中したみたいだった。

すると、突然阿部くんは問題ね。と言って新たに話し始めた。

「四苦八苦の4つの苦とは何でしょう」

『四苦、？ん〜…』

「じゃあヒント。老、病、死、あとは？」

老いること、病気になること、死ぬこと。

それが苦しみなら……

『独り…とか？』

「いいと思うよ。でも正解はね……」

私の答えを噛み締めるような表情を創ってそう言った後、

自分の腕を見つめながら

「生、Aさんの望む生きる事。」と。

一つの四字熟語の中に正反対な単語が入っている。

今まで深く考えたことがなかったけれど、とても不思議。

生きる…苦しい事なのかと自問する。

「Aさんにとっての苦は死かもしれないけど、
俺にとっての苦は生。」

生きるも死ぬも苦。その裁量は個人によって決まる。

彼の死にたい感情が今まで理解できなかったけれど、

少しだけはっとした。

私が生きたいと望むなら、勿論死ぬのはとても苦。

阿部くんが死にたいと望むなら、勿論生きるのは苦。

どちらが贅沢なのか。