生きたい彼女と死にたい彼。 (ページ39)

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苦痛ページ39

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8月1日。病院のベッドの上。

あの日診察室で先生から聞かされたことは、想像通りだった。

補助人工心臓の装着。

そしてそれに伴う手術をすると。

覚悟の上だったのにも関わらず、

イマイチピンと来ない報告に呆気に取られながらも

そうですか…と一言返事をした。

でも、自由に過ごせた最後の思い出が

あのコーヒーショップで、

それもあのメンバーだったなら良かったと思った。

先生から報告を受けた次の日には

もう手術台に載せられて

そこから数日手術を含め入院している。

状況を理解する前に進んでしまった現実に今更気が付き、

目を覚ました後体外まで出ている装置を見て

ショックを受ける他無かった。

いくらなんでも私は女。

助かったとしたってこの傷は……。

行くはずだった三者面談は母と先生の二者面談になった。

申し訳ないと思いつつも、

学校へいかなくて済んだことに少しの安堵感。

気を紛らわすためにベッドの上ですることといえば、

阿部くんと佐久間くんとメッセージをやり取りすることくらい。

"俺阿部ちゃんとお見舞い行きたいんだけど"

"秘密破ることになるから無理だよ"

"いーじゃんいっその事暴露し合えば！！"

"秘密の意味知ってる？"

グループのSMSのはずなのに

トーク画面はほとんどふたりで埋まっている。

そんなふたりに補助人工心臓の事は話さなかった。

いや、話せなかった。

余命宣告をされたと話すだけで

私はいっぱいいっぱいだった。

だからもう、

病気について他の人に打ち明ける体力なんて

これっぽっちもなかった。

"暫くは家族以外面会禁止だから、門前払いされるよ"

"え！！！この佐久間が！？！？"

"どの佐久間だよ"

一定の音しか発さない機械と重たい機械と一緒に

一日中過ごすのはいくらなんでもつまらな過ぎる。

両親は仕事に行かなければいけないし、

姉はアルバイトに明け暮れている。

代わり番こに誰かは来てくれるけど、

面会時間ギリギリだからすぐにいなくなってしまう。

一人の時間が多ければ多いほど、心は揺らぐ。

人間は脆いと熟感じさせられる。