おかえり ページ16
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「おかえりなさい、ライナー」
そう言ってあの男の体を抱きしめるAは、神話に出てくる女神のような、全てを包み込む聖母のようなそんな姿と重なって見えた。
それから直ぐにAの指示でライナーは治療室へと運ばれ、Aはこちら側の損失について会議を開くために足早に消えていった。俺の目に写っているのは、一向に回復する気配のないドベの姿。
「……おいドベ、いい加減目ェ覚ませ」
「……」
「ッ…Aが泣いてんだぞ、さっさと起きろよ…！！」
そう叫んだところで未だ修復のされない腕から煙が立ち上ることは無かった。
俺と入れ違いに急いできたらしいAが治療室へと入り、「ライナー」と小さな声でつぶやくのが聞こえた。
「…ライナー、おきて。貴方が起きたら聞きたいことも、話したいことも沢山あるの」
「……」
「…逃げたっていいよ、あなたと二人なら、全部捨てて逃げたっていい。」
だから起きて、と弱々しく呟いたA。それを聞いて俺は動揺を隠せずに危うく物音を立ててしまうところだった。
部屋の中のAはそれどころじゃないのか、こちらに気づいた気配は無い。
ドベとジークさんが戻ってきてから早二週間、Aは寝る間も惜しんでライナーの看病をしている。
「……ライナー、起きないね」
「…あぁ」
「嫌になっちゃったのかな、……寂しいなぁ。私はライナーの生きる理由にはなれないのかなあ…。」
「そんなことねぇ！！…お前はアイツの、唯一捨てれなかったもんだろ。」
前任者の記憶を見た、ドベはどうやら壁内でいわゆる二重人格のようになってしまっていたらしい。
こちら側の人格が戦士、壁内での人格を兵士。しかしそんな切り替えの中で、ライナー・ブラウンという男が唯一忘れなかったものがある。
それがA・スロット、俺の目の前で悲しそうに眉を下げるこの女だった。
言ったところでAは俺の言葉を信じやしないだろうが、“ユミル”とかいう女の記憶を見る限り、ドベがAについて忘れちまったことは無かったらしい。
「“
そんな大層なことを言う割には、こいつのために目を覚ましてやらないのか。
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作者名：ふりこ | 作成日時：2022年3月3日 14時
