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Aの死は、Aが死んだその翌日に炭治郎へと伝わった。勿論その場には善逸も伊之助もいた。
「……嘘だ」
現実逃避ではなく、炭治郎は本当に、ただ純粋にそう思ったのだ。逆崎Aは一番死から遠い人物だと炭治郎は認識していた。
鬼殺隊へ所属している時点で死がないとは言い切れないけれど、それでも一番Aは死から遠かったと。
それほどAには実力があり、時に冷酷なまでの冷徹さやそれとは真逆のいきすぎた仲間への信頼があった。それは全てAを構成する強さだと、炭治郎は数回の共闘で学んでいる。
そんなAの死。
葬儀が行われることは無かった。隠によって回収された死体は無残なもので、片腕もなければ片方の眼球も、頬の肉も、腹も。抉られ、食い散らかされ、人間の体と呼ぶにはあまりにも足りなかった。
それでもなおまだ生きているのではないかと錯覚させるような美しさは、Aのもって産まれた端正な容姿のせいである。
Aの最後の言葉はなんだったのだろうか、と炭治郎はそんなAの死体を見つめながら思う。
助けを求めていただろうか。それとも痛みに泣きわめいていただろうか。もしかしたら何かへの懺悔だったり、生への解放を喜ぶものだったかもしれない。
ポタポタと炭治郎は瞳から涙をこぼす。誰にも看取られず一人で死ぬというのはあまりにも酷だった。
「俺、頑張ります。必ず鬼舞辻の首を斬ります」
ぽっかりとあいたAの胸に心臓はない。空っぽの肉塊となったAの体はもう腐るだけ。
二度と自分の頭を撫でてくれることはない。優しく笑顔を浮かべることはない。
「あれ」
ここは、と炭治郎は目を覚ました。本屋の前で善逸を待っていて、それで…と記憶を遡らせていく。
それで、ああ、そう。自分は鬼舞辻に再会し、Aに助けられたのだと思い出す。
全て、思い出す。
自らが鬼狩りであったこと、Aの死のこと。思いの外混乱せずすんなりとそんな意味不明な記憶を受け入れ、炭治郎はすでに自分の過去としてものにしてしまっていた。
体を起き上がらせればギシッとベッドが軋む。空は日が落ちそうだった。
「起きたか、炭治郎君」
「……逆崎さん」
その笑顔はあまりにも懐かしいもので。思わず込み上げてくる涙を炭治郎はこらえた。
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赫赫 - えっそこで更新停止…!?勿体ない……!!とても面白い作品です!更新して欲しいです! (2021年12月9日 7時) (レス) @page39 id: 33d74645c1 (このIDを非表示/違反報告)
10優 - すんごく面白いです!一瞬で文スト(鬼滅?)の世界に引き込まれちゃいました(笑)更新待ってます。頑張って下さい! (2019年12月4日 1時) (レス) id: 9d99cb2590 (このIDを非表示/違反報告)
六花 - あのお願いがあるのですが、逆崎君の詳しいプロフィールを教えてほしいです!無理ならば大丈夫ですよ。更新いつでもいいので頑張ってください! (2019年10月12日 19時) (レス) id: 1558ece2fb (このIDを非表示/違反報告)
える(プロフ) - ルルナナさん» ありがとうございます(*^^*)不定期な更新ですが、ぜひ逆崎君の物語にもうしばらくお付き合いください。コメントありがとうございました(*^^*) (2019年8月11日 0時) (レス) id: ace072b99e (このIDを非表示/違反報告)
ルルナナ(プロフ) - いつも更新楽しみにしてます!此れからも頑張ってください! (2019年8月10日 23時) (レス) id: f75b5a5c4e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:える | 作成日時:2019年5月25日 23時