16 ページ16
「先生」
屋上に寝転がる少女の近くに背を向けて、義勇は座っていた。「なんだ」既に五限目を知らせるチャイムはなっている。確か五限目は授業が入っていないはずだ、と義勇は慌てることはなかった。
「先生は大切な人、いる?」
大切な人。思い浮かぶのはかつての仲間だった。あの時は自分の前に何人欠けたのだったか。今毎日のように顔を会わせている彼らは、あの日々を覚えてはいない。
義勇はそこに寂しさを感じることはなかった。
「ああ」
肯定。少女は「だよねー」と気の抜けた声で言った。
「私んち、親が仲悪くてさ。お兄ちゃんだけが私の居場所みたいなところあって。大切だったし、大好きだった」
少女の言わんとすることはつまり、何故自分の兄なのかということで。ムクリと静かに体を起こした少女は、遠くの方の空を見つめて、それから「あ」と口にした。
「帽子飛んでる」
自分の体ならあんな風に飛ぶことはできない。と、少女は苦笑した。
───
──
─
Aは苦笑した。「太宰ぃい!!」と探偵社に響く国木田の声は慣れたもので、慣れるほどに、最近は各地で鬼の話を聞かない。
最後にAが倒した鬼はあの芥川がいた場きりで、それ以降、ぱったりと鬼は出ていない。鎹鴉が静かだった。
「貴様はまたこんなに書類をためおって!書類置き場じゃないんだぞ貴様の机は!」
「治君。仕事はきちんとやろうよ。雇われの身だろう?」
「しているよAさん。今はこの本を読むことが私の仕事だ」
「そんな物騒な本を読む仕事なんてない」
スッとAがそれを取り上げる。完全自 殺本、と書かれた表紙。「お」とAは太宰が開いていた頁を見て声をあげた。
「……まぎらわしいというかなんというか。そうだ、君はそういう奴だったな」
鬼について。
表紙と中身はどうやら別の内容らしい。
「そんなの僕に聞けばいくらだって教えるよ。まあそれにも限界があるけれど」
「Aさんはあまり聞かれたくないと思っていたのだけれどね。昔の話は嫌いだろう?貴方は寂しがりやだから」
「頼むから敦君達には言わないでくれ。僕はいい格好しぃでもあるんだ」
「自覚済みじゃないか」
「まったく」
Aは太宰に本を返す。「何が聞きたい?」国木田は空気を読んで去ろうとしたが、「独歩君も聞いてくれていいよ」と呼び止めた。
「知ってる範囲でなら、なんでも答えよう」
298人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
赫赫 - えっそこで更新停止…!?勿体ない……!!とても面白い作品です!更新して欲しいです! (2021年12月9日 7時) (レス) @page39 id: 33d74645c1 (このIDを非表示/違反報告)
10優 - すんごく面白いです!一瞬で文スト(鬼滅?)の世界に引き込まれちゃいました(笑)更新待ってます。頑張って下さい! (2019年12月4日 1時) (レス) id: 9d99cb2590 (このIDを非表示/違反報告)
六花 - あのお願いがあるのですが、逆崎君の詳しいプロフィールを教えてほしいです!無理ならば大丈夫ですよ。更新いつでもいいので頑張ってください! (2019年10月12日 19時) (レス) id: 1558ece2fb (このIDを非表示/違反報告)
える(プロフ) - ルルナナさん» ありがとうございます(*^^*)不定期な更新ですが、ぜひ逆崎君の物語にもうしばらくお付き合いください。コメントありがとうございました(*^^*) (2019年8月11日 0時) (レス) id: ace072b99e (このIDを非表示/違反報告)
ルルナナ(プロフ) - いつも更新楽しみにしてます!此れからも頑張ってください! (2019年8月10日 23時) (レス) id: f75b5a5c4e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:える | 作成日時:2019年5月25日 23時