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誰かのために命を投げ出すというのは馬鹿らしい。美徳ではあっても、正解ではない。
だから義勇はAが好ましくなかった。
「なんとも思わないのか。お前は、自分を」
Aは頭にハテナを浮かべる。そして少し考えてから、言葉足らずな義勇の言いたいことを理解した。「そんなことはない」と笑うAはどこか嬉しそうだった。
「自分が大切だから僕は大切な人を守りたい。僕は大切な人が死んだとき、自分を殺すのは自分だと知っている」
あれは本当にそうした。あと一歩遅ければ自害していた。
強い風が吹いている。耳元でボオオとそれが響いて、目の前で宙に身を投げ出そうとしている女子生徒の嘆きは聞こえない。
義勇は目の前で教え子が身投げしようとしてる中、そんな、過去のAのことを思い出していた。彼女にもAと同じような何かがあるのだろうか。
「やめろ」
淡々とそういう義勇の声は聞く人によっては冷酷さを思わせる。
「……生きてたって、優しく出迎えてくれるお兄ちゃんはいない」
少女が流す大粒の涙は風にのって地面に落ちることはない。「警察は、お兄ちゃんが鬼になったって言った。港の方でスマホが見つかって、鬼狩りが倒してくれたんだろうって」
「倒してくれたって、なに?」
義勇はああ、と全て察した。かつての仲間が、この少女の兄の首を落としたのだと。今や鬼狩りはあれしかいない。日輪刀がない今世の自分は、刀すら握っていない。
「殺されたんだ!お兄ちゃんは被害者なのに!」
バタバタと衣服の音がうるさい。しかしそれよりも、彼女の声のほうが何倍もクリアに聞こえた。
「すまない」
口からでたのは謝罪だった。「はあ?」と少女は見下すように笑う。「なんで先生があやまんの」
「すまない」
「だからなんっ!!」
義勇は一瞬のうちに少女に近づき、腕を引いた。少女は地面に強く体を打ち付ける。「いたっ!」と、悲痛な声がした。
「助けてやれるような言葉をかけてはやれない」
もし自分がAだったら、もっともらしいことで彼女を納得させていただろう。この場にいるのが同じ"教師"である煉獄なら、きちんと彼女のケアをしてあげられるに違いない。
「すまない」
少女はだまって口をつぐんで、泣いた。
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赫赫 - えっそこで更新停止…!?勿体ない……!!とても面白い作品です!更新して欲しいです! (2021年12月9日 7時) (レス) @page39 id: 33d74645c1 (このIDを非表示/違反報告)
10優 - すんごく面白いです!一瞬で文スト(鬼滅?)の世界に引き込まれちゃいました(笑)更新待ってます。頑張って下さい! (2019年12月4日 1時) (レス) id: 9d99cb2590 (このIDを非表示/違反報告)
六花 - あのお願いがあるのですが、逆崎君の詳しいプロフィールを教えてほしいです!無理ならば大丈夫ですよ。更新いつでもいいので頑張ってください! (2019年10月12日 19時) (レス) id: 1558ece2fb (このIDを非表示/違反報告)
える(プロフ) - ルルナナさん» ありがとうございます(*^^*)不定期な更新ですが、ぜひ逆崎君の物語にもうしばらくお付き合いください。コメントありがとうございました(*^^*) (2019年8月11日 0時) (レス) id: ace072b99e (このIDを非表示/違反報告)
ルルナナ(プロフ) - いつも更新楽しみにしてます!此れからも頑張ってください! (2019年8月10日 23時) (レス) id: f75b5a5c4e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:える | 作成日時:2019年5月25日 23時