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「是非ネットでも本でもで調べてみるといい。おとぎ話のようだが、生憎全て実話だ」
太宰はひらりとコートを翻す。「はい。てあれ、どこか出掛けるんですか?」と敦は尋ねた。
「ああ、少しね」
いつも通り掴めない笑み。けれど敦は知っている。こういう笑い方をする時の太宰は、その賢すぎる頭の中で、いくつかの推測やあてがあるのだと。
太宰が向かったのは、とある廃墟だった。元々小さな法律事務所だったそこには、未だに椅子や作業用の机、ポスターやまとめられた雑誌、それに新聞、書籍などがある。
どれも五年ほど前のものだ。「よいしょっと」太宰は入り口と対面するように置かれた机の上に腰かける。
おもむろに懐から取り出したナイフを器用に回すと、自分の手首をスッと切った。じわじわとあふれでる血。「餌はよし」ナイフをしまう。
日は既に落ち、手に持つ愛用の完全自 殺読本の明かりは月が頼りだった。
埃臭さやすきま風を気にすることもなく、太宰は文字を追う。何度も読み返したのか、本の頁の端は所々折れている。こんな本を、何度も。
ペラリ、ペラリ。紙を捲る音だけが反響する。時々太宰のご機嫌そうな鼻唄や、感嘆の声が混じるが。
パリン、と下の階の窓ガラスが割れる音がした。太宰がいるのは三階。この廃墟の最上階だ。
「ふんふふーん♪」
なおも太宰はご機嫌そうに鼻唄を歌う。建物の半壊する鈍い音が、段々とそんな太宰に近づいていた。
「見つけた、見つけたぁあああ!!」
ドガッ!と大きすぎる音をたてて扉がぶっ飛ぶ。扉だけではない。その風圧で天井も、窓ガラスも、ありとあらゆる紙類も。
太宰はその風圧に耐えきれず、コロリと机から転がり落ちた。
「いたたたたっ」
「稀血!稀血!」
だらだらと垂らす涎。子供のような話し方とはあまりにも対照的なガタイのいい男は、顔に血管を浮き立たせ、食料として太宰を見ていた。
ポタリ、と太宰の指先にまで先程の血が伝う。ガァアアア!!と醜い叫び声をあげると、その男は目にもとまらぬ速さで太宰に襲いかかった。鋭く尖った長い爪が、月明かりに反射する。
「頼むからこういう無茶はしないでくれるか!!」
ほぼ同時だった。この場に無かった若い青年の声がしたかと思えば、太宰に伸ばされていた男の手がポトリと落ちる。
太宰の視界に写ったのは、まだ太宰が14の頃に見た深い藍色。
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赫赫 - えっそこで更新停止…!?勿体ない……!!とても面白い作品です!更新して欲しいです! (2021年12月9日 7時) (レス) @page39 id: 33d74645c1 (このIDを非表示/違反報告)
10優 - すんごく面白いです!一瞬で文スト(鬼滅?)の世界に引き込まれちゃいました(笑)更新待ってます。頑張って下さい! (2019年12月4日 1時) (レス) id: 9d99cb2590 (このIDを非表示/違反報告)
六花 - あのお願いがあるのですが、逆崎君の詳しいプロフィールを教えてほしいです!無理ならば大丈夫ですよ。更新いつでもいいので頑張ってください! (2019年10月12日 19時) (レス) id: 1558ece2fb (このIDを非表示/違反報告)
える(プロフ) - ルルナナさん» ありがとうございます(*^^*)不定期な更新ですが、ぜひ逆崎君の物語にもうしばらくお付き合いください。コメントありがとうございました(*^^*) (2019年8月11日 0時) (レス) id: ace072b99e (このIDを非表示/違反報告)
ルルナナ(プロフ) - いつも更新楽しみにしてます!此れからも頑張ってください! (2019年8月10日 23時) (レス) id: f75b5a5c4e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:える | 作成日時:2019年5月25日 23時