【80】＿＿夏準SIDE ページ34
夏準「CLUB paradoxであなたの調整について、スタッフがやけに褒めていました。それなりの腕なのでしょう？こんな大会に呼ばれるくらいなんですから」
『あれは元々調整が完璧だった。私がやったのは埃を払っただけ。現段階で彫金は受けない』
目線で早く帰らせろ、と訴えている彼女を見下ろす。
この間は遠目で見えていなかったですが、中々に整った顔立ちをしていますね。
唯一勿体ないと思うのは、この眼帯なんですが……人に見せたくないような傷でもあるんでしょうか。
『おい、退け』
鬱憤のたまった声で僕を脅しているようですが、そんな顔をされたらますますいじめたくなりますね。
険しい顔を浮かべる彼女に対して、笑顔で返し、そっとその頬に手を添える。
ピクリと肌が震えているのを逃さず、スーッと指で左目の目元を撫でる。
夏準「綺麗な紫紺色ですね。隠れている方もそうなんですか？」
『おい』
夏準「何もタダで調整をお願いするんじゃないです。欲しいものがあるならば、何だってご用意しますよ」
相手が望むような言葉を選びつつ、右目の眼帯に手を当てた。
すると、この状況でハッと鼻にかけたような笑いを浮かべた。
『全部の女がそれで靡くと思うなよ』
パシッン、と乾いた音と共に僕の手がはじかれ、部屋の中央まで押される。
僕が触った部分を落とすように手首で拭い、倉庫の扉を開けた。
『私の欲しいものなんて、お前ごときじゃ用意できないよ。バーカ』
ベェッと舌を出し、僕に背を向け去ってしまった。
追いかけることは出来たのに、なぜか呆然としてしまったのは…
夏準「……あのような顔も出来るんですね」
自身や周りに無頓着かと思えば、実はそうはないのかもしれません。
これは金や何やらで釣れる相手ではなさそうですね。
でもまぁ……興味を抱いたのは事実なので、諦める気は毛頭ありませんけど。
先に感じたゾクゾクとした感覚に、ふっと口角が吊り上がるのを感じた。
夏準「ふふっ、一先ず。アレンに目をつけられたのが運の尽きだと思っていてください。月夢Aさん」
今後とも、彼女にはお世話になりそうだ。
またしばらくしない内に出会う事になるだろう。その時、彼女が僕にどんな表情を向けるのか…それを楽しみにしながら、再開を待つとしましょうか。
それに……“現段階は”ねぇ……。
夏準「その言葉が変わる日も近いかもしれない、という事ですかね」
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作者名：テルミヤコウジ | 作成日時：2021年6月29日 19時
