双黒の姫君 −其の弍−【文豪ストレイドッグス】

56話 ページ19

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太宰と中也は廃墟の中へ侵入していた。
気配を消し中の様子を伺いながら進んでいく。だが、思ったより中はボロボロでその場を踏めばパラパラと崩れてしまう。


「チッ。こりゃ下手に重力を使えねぇな。足場が悪すぎるぜ」


「確かに君のようなミニゴリラがちょっと力入れたら壊れちゃうだろうね此処」


「誰がミニゴリラだ手前。張っ倒すぞ。」



相変わらず言い合いが止まらない二人。
そんな調子で奥へと進んでいけばいきなり銃声が響いた。


中也は瞬時に異能を使って弾を防ぐ。そして、前方を見れば数人の男が銃を此方に向けていた。


「待ち伏せっつー訳だな。大層なお出迎えじゃねぇか」


「金で雇ったならず者ってところかな。奴もこんな連中を仲間にするなんて随分必死のようだね」



再び銃声が鳴る。向かってきた弾を中也は今度は重力で防いだ後そのまま跳ね返した。
そして、男達はそのまま血飛沫を上げて倒れた。




その時、辺りに響いた拍手。
この場に不釣り合いなその音に中也と太宰は音がする方へと顔を上げた。


上と下を区切る天井は一部が大きく剥き出しになっており下にいる太宰と中也は上に立っていた人物を視界に捉えた。


「素晴らしい。流石は双黒と呼ばれるお二人だ。私の雇った者達をまるで小蝿を追い払う様に殺してしまうとは。」



男は面白いものを観賞し終わった様に笑う。
彼の風貌は所々跳ねた茶髪に眼鏡を掛けていてどこから見ても普通の若い男だった。


「手前が島崎藤村だな。」


「いかにも私の名は島崎藤村。お初にお目にかかれて光栄ですよ中原中也殿。
そして、太宰治殿。お久しぶりですね。
双黒と呼ばれた二人にこうしてお会い出来た事大変嬉しく思います。」


律儀に頭を下げる島崎に中也は怒りを抑えられなかった。辺りに重力がかかりパラパラと音を立て始める。そして中也の地を這うような声が響く。


「巫山戯てんのか手前。Aは何処だ。
もし彼奴に指一本でも触れてやがったら唯じゃおかねェぞ」


中也の殺気にもその微笑みを崩さない島崎は一度目を閉じた後、右手を挙げた。
それを合図に島崎の後ろから男が現れる。
そして、その男に連れてこられたのはAだった。Aは手を後ろで鎖によって縛られていてその場に膝をつかされた。



「「A！」」



太宰と中也が同時に彼女の名を呼ぶ。
その声にAはゆっくりと俯いていた顔を上げ二人を視界に捉えた。



そして、＿＿＿＿＿＿









『貴方達は、＿＿＿＿＿＿誰？』









虚ろな瞳の彼女はそう云った。





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