240メートルの誤算5【佐野玲於】

俺には ページ35

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豪華な機内食
同じもの食ってんのに、Aはわざわざラインで写真送ってきた。
笑い堪えんのに必死だわ。やめてほしいほんと。

暗くなって、シートを倒す。
イヤホンつけて、ぼおっと音楽聴いてた。

俺が好きなバンドの曲
教えたら、Aもこっそり聴いてたな。
もし俺が一般人だったら、ふたりでライブとかも行ってたかもしんない。
おそろいのTシャツとか着てさ
ツアートラックの前で写真撮ったりして。
ライブのあとは感想言い合って、そのままノリでカラオケ行ったり？
…あー、いいなあ
そんなのしたかった。
してあげたかった。

後悔してばっかだけど、でも
俺がこの仕事してたから出会えたんだって
それも確かな事実だし
Aが悠太の元カノじゃなかったら、もちろん出会えてないわけだし
嫌なことも忘れたいことも、全部含めて、今の俺らが出来上がってる。

無駄だったことなんてひとつもない
って
俺は、自分にそう言い聞かせてた。
たぶん、この4年間ずっと。





ようやくたどり着いたNYは、まだ冬の寒さが残っていた。
Aは修学旅行以来の海外だって言ってて
着いて早々、目キラキラさせて喜んでる。

もう現地時間で18時を回っていて、急いでタクシーに乗り込んだ。


「寒いね。」
「うん、ちゃんと着てる？インナー。」
「着てるよ。ほら、玲於くんが買ってくれたコレと…」
「あーあーもう見せなくていいから。」
「このインナーすごくあったかいね。びっくり。」
「でしょ。」


マンハッタンで降ろしてもらい、はしゃぐAを何枚も写真におさめた。
お腹減ってないって言うから、そのままブロードウェイのミュージカルを観劇する。
チケット取っといてよかったな
A、隣の席ですげー楽しんでくれたし。

終わった後、すぐそばのレストランで遅めのディナー。
シャンパンも飲んだ。
A、一枚だけ玲於くんの写真撮ってもいい？って遠慮がちに聞いてきて
いいよって答えると、嬉しそうに一枚、俺のこと撮ってた。

一枚じゃ無くていいよ、言いながら
ウェイターに頼み、ツーショットを撮ってもらう。
4年も一緒にいて、Aのスマホに俺の写真が入ったのは、多分この時が初めてだった。
Aは俺の仕事が嫌いだって言いながら、結局理解してくれていて、今までも沢山我慢してくれていた。



こんなに幸せなのに
ほんと、こんなに幸せなのに
Aは不意に、苦しそうな顔をする。
無意識なんだろうな
俺にはその表情を変えることができない。


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