240メートルの誤算5【佐野玲於】

空港 ページ34

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日曜日の夕方
仕事を終えた後、大急ぎで家に帰った。


「ただいまA、準備できた？」


リビングのドア開けながらそう言うと
俺のキャリーケースの横で、自由の女神のオブジェを見つめてるAが振り向いた。


「…おかえり。」
「なにしてんの？」
「…いってきますって、言ってたの。」


なにそれ？聞くと、なんでもないよって。
わけわかんねえけど、今はそんなことに首突っ込んでる場合じゃない。


今日は待ちに待った、AとNYに行く日。
超弾丸で、ほとんど飛行機にいるみたいな
まあそういうのだけど、向こうでも一泊ホテル泊まれるし、いっかなって。
てか、Aと一緒ならどこでもどんなでもいいやって。


「タクシー待たせてるから、行くよ。」
「うん。ねえこれ…」
「本物見に行くのになんでオブジェ持ってこうとしてんのバカ。置いて置いて。」


Aはこんなときにもマイペース
でもなんかちょっと、緊張してるみたいだった。
俺が買ったパンプスに足を通して
ちらって俺のこと見たあと、真顔になってる。

ドア開けると、今度は泣きそうな顔をした。


「…百面相だね、きみ。」
「…外出たの、1ヶ月ぶりくらい…」
「……。」
「……なんか悪いことしてるみたい。」
「大丈夫。」


タクシーに乗るまでの間ですら、距離をとって歩く。
Aがついてきてるか不安で、何度か振り向いてしまった。
車内でようやく隣になれて


「…玲於くん、振り向きすぎだよ。」
「いや…逃げ出さないように。」
「逃げないよ。」
「ちゃんとワンピース入れた？」
「うん。」
「ん。パスポートとかは？」
「持ったよ。」


心配性すぎる俺を、Aは小さく笑って
ありがとうって呟く。


空港でも別々に行動した。
荷物は全部俺が持ったけど、たまに人混みに紛れてしまうAに見つけるのに、いちいち焦る。
ようやく飛行機に乗り込んだそのあとも
何かとCAさんのお世話になってるA。

ビジネスクラスでこんな慌ててるやついねえよ。
ほらもう、CAさん笑っちゃってんじゃん。
すみませんほんとって謝りたい気持ちは山々だったけど、ここは我慢して他人を決め込む。

ほぼ個室みたいになってて、斜め後ろを振り向いても、あんまり顔が見えない。
それでもたまにちらちら見てたら、ちょうどこっちを見たAと目が合って。

マスクおろして、口パクする。
ばーか
くすくす笑ってるAが、かわいかった。


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