240メートルの誤算5【佐野玲於】

東京タワー ページ24

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それから2週間が経った。
新しい現場とツアーが決まり、順風満帆。
もちろんトレーニングも怠らず、トレーナーさんにもこの前褒められた。

知り合いのショップで出た、新作のスニーカー
お気に入りのパーカーに、キャップも新しいやつ。
全てにおいて調子が良い。
最近はほんとに、身体が軽くなった気がする。



「玲於、もう終わり？」

全員での雑誌インタビューを終え
控室でスマホ触ってたら、メンさんが声をかけてきた。

「いや、今日1時からまた撮影ある。」
「1時？夜中の？」
「うん。」
「大変じゃん。」
「そうだよ。お前と違って。」
「生意気すぎるでしょ。笑」
「で何？」
「いや、メシ誘おうと思って。」
「あー。」


腕時計は19時を指していた。
…まだ時間はあるけど…


「…いや、やめとく。」
「家帰んの？」
「うん。」
「なんか最近すぐ家帰りたがるよね。」
「オレ自宅警備員だから。」


はいはいって笑ったメンさん
じゃあそういうことで、って立ち上がり
メンバーにバイバイって声かけて、部屋を出た。
用意してもらってたタクシーに乗り込み、住所を告げる。


ええっと、買い物…は、昨日したからいいか。
パンもまだ残ってたはず。
寄る場所は特になし。
スマホを見ようかと思ったけどやめにして、ぼおっと腕時計の秒針を眺めてた。

そんな俺に、運転手さんが話しかけてくる。


「ちょっと渋滞してますね。」
「…あー、全然大丈夫っす。」
「すみません、脇道入れそうになくて。」
「や、いいっすよ。」


信号が赤に変わった。
横断歩道の手前で止まる。


「ああ、でもちょうど見えましたね。」
「え？」
「前の方、東京タワーです。」


言われて、顔を上げた。
ビルとビルの隙間からちょうど見えるのは
オレンジ色に灯る、東京タワー


「スカイツリー建ってから随分目立たなくなりましたけど、やっぱり僕は東京タワーが好きだなあ。」
「……。」
「いいですよね、あの存在感。」
「……そうっすね。」


目を瞑る。
満たされているはずなのに、どういうわけか、胸が痛かった。
足りないものが何なのか、俺にはわからない。
たぶん一生わからないんだろうなと思った。



20分後
マンションに着いて、エレベーターで上がる。
1時からの撮影、スタジオ近いし
マネージャーが迎えきてくれるって言ってたから
0時に出たらいっか。
とりあえずメシ食って、なんて考えながら
家の鍵を開けた。


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