240メートルの誤算5【佐野玲於】

シャンパン ページ12

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「乾杯〜！ほら玲於くんもグラス持って！」


さくらちゃんの声が高々と響く。
ちょっと良いお店につれつきてあげたのに
相も変わらずこの調子。


「はいはい乾杯。」
「えぇ？テンション低くない？」
「ちょっとさ、静かにしてくんない。個室だからって騒ぎすぎ。」
「…やっぱり冷たくなった…」
「いや今回に関してはさくらちゃんが悪いでしょ。」


仕事が早めに終わった、19時過ぎ
ほんとはAのとこに行きたかったけど、グッと堪えてさくらちゃんを誘った。
めちゃくちゃ嬉しそうに、行く！って返事くれて
予定より1ランク上の店を予約しちゃったのは、完全に俺の落ち度だけど。


「で、なに？今日ノロケに付き合わされるんでしょ、わたし。」
「…いやいや、べつに。」
「もうにやけてるじゃん！」


食前酒として出されたシャンパンを片手に
高校生みたいな恋話。
久々に会ったからか、会話も弾む。


「まあ今日も会いに行くけどね。」
「えっこのあと？」
「うん。」
「うわ…じゃあ内心早く帰りたいなーとか思ってる？」
「……いやいや。」
「最悪じゃん！笑」
「嘘だって。」
「嘘じゃないよね？」


Aには、23時には行くって言ってる。
あいつ明日休みだし、俺もわりとゆっくりだし。
早く会いたい
ほんと、付き合いだしてすぐの頃と同じ。


「でもなんか安心した。今のところ上手くやってるみたいで。」
「今のところって…」
「自分でも言ってたじゃん、また同じこと繰り返すかもって。」
「うーん、でもなんかね、素直になった。」
「Aちゃん？」
「や、お互い。俺もわりと、気持ち伝わるように頑張ってる。」
「ふうん、良い感じじゃん。」


コースを頼んでたから、そのタイミングで前菜が運ばれてきた。
さくらちゃん、スマホ取り出して写真撮ってる。


「…でもさあ、」
「ん？」
「べつにいいんだけど、一個だけ、まあ…気になってることあって。」
「なに？」
「…前実は、Aがバイトしてるスーパーにさ、行ったことあんだけど。」
「うん。」
「そのときたまたま会って、ちょっとだけ話した男がいて。その、スーパーで働いてる人。」
「うん。」
「そいつがね、なんか…Aのこと好きっぽいってか、狙ってるってか。」


あのときの、北山の目。
たまに思い出す。

変なプライドが邪魔して、Aに直接聞けないし
塵も積もれば、的なアレで、わりとイライラしてる。


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