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憎い ページ43

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アパートの前
ふたりで向かい合って

男がAに向けて手を差し出す。
Aは少し考えたあと、首を振った。
街の音がうるさくて、ふたりの会話が聞こえない。
でも、車の流れが止まったとき、一瞬だけ

運命だとか思ってました

って、男の声が聞こえて。
横の歩道を、イヤホンつけたサラリーマンが通り過ぎてく。
そのときAたちのこと一瞬見たけど、でもなんでもない顔でまた、前を向いた。

それが、本当に
俺はもう、頭がおかしくなるくらい
悔しくて


振り向いて帰ってく大学生の背中を
Aはじっと見つめてた。
なんでそんなに見てんだよ
俺がここにいるの、全然気付かないくせに
ふざけんなよ
もうほんとに、なんで
なんで

気付けば、Aに向かって財布を投げていた。
驚いた様子で振り向いたAは
足元に転がった財布と、俺の顔を見た途端、明らかに顔を強張らせて


「…追いかければ?」
「……違うよ…いま、もう会わないって、話して、別れたところで…」
「……俺が邪魔者なの?…俺がいなきゃ、今頃手繋いでた?」


冷静でなんていられなかった。

ずっと、思ってたよ
好かれて無くても一緒にいたいって。
Aがどれだけ他の男に心を動かされようと、うざいし腹立つけど、それでもいいって。

でも、実際こうして
誰かと一緒にいるAを見るのは、初めてだったから。

俺にはとても耐えられない。
もう、いい。
もういいよ。
現にお前、今何も言い返してこないじゃん。
俺がいなけりゃよかったんだろ
そしたら今頃、ふたりは


「…いいよ、もう。…なんか冷めた。」
「……。」
「……俺ら、元から相性悪かったしね。…さっきのあいつ、運命だって思ってたって。…俺なんかより全然いいじゃん。サイテーな出会い方した俺なんかより。」
「……出会いは、サイテーだったかもしれないけど…そんなのどうでも良くなるくらい、わたし、玲於くんだけだよ。」
「…過去形にしといてよ。」
「……。」
「…もう、終わろ。…サイテーだね。さいあくだね。出会いも、別れも。」
「やだよ…」


この後に及んで、Aは泣きそうな顔をしてた。
いま、やだって言った?
ありえないよ
いつもお前が言ってたんだよ
別れたいって
俺がどんな思いで話逸らしてたか分かる?
わかんないよね
お前、俺のこと何とも思ってないもんね


つん、て
鼻の奥が痛くなった。

初めてAのことを、憎いと思った。


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mugi(プロフ) - 自分に重なることが多すぎて、感情移入どころではなかったです。素敵な作品いつも有難うございます。 (2019年11月18日 10時) (レス) id: 4db51b5e5d (このIDを非表示/違反報告)
ゆいあ - きなこさんの作品大好きです! (2019年11月3日 18時) (レス) id: a624d1b453 (このIDを非表示/違反報告)
_myprince8(プロフ) - きなこさんの作品全て好きです。完結まで結びますように!っ (2019年11月3日 10時) (レス) id: bca9b2866b (このIDを非表示/違反報告)
ゆうか(プロフ) - 私最近の玲於くんの大人っぷりに寂しいって感じてしまい玲於くん見るの少し離れてたんです。だからきなこさんの思ってること同じで嬉しくなりました。今はちょこちょこ玲於くんを応援してるつもりです。笑1日の終わりに読むきなこさんの作品いつも楽しみです! (2019年11月3日 1時) (レス) id: f500b029ae (このIDを非表示/違反報告)
も。(プロフ) - きなこさんの作品の中で一番好きです。人間味があって執着する玲於ちゃんや空回りながらも同じ思いの主人公ちゃん、すれ違いがもどかしいけど読み応えがあって本当に好きです。完結まで頑張ってください! (2019年11月2日 9時) (レス) id: db66c21382 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きなこ | 作成日時:2019年10月10日 22時

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