240メートルの誤算3【佐野玲於】

冬休み ページ18

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俺はこの3年間
Aの存在を命綱に、強くなっていた。

理由はよくわからない。
久々にできた彼女だったから？
一般人のコだったから？
ほんと、わかんないけど、使命感みたいなものがあって
Aにとって最良の男であるために、って
そんなことばっかり考えてた。

文字通り、Aのために生きてたんだよ。


がむしゃらだった。精一杯だった。
周りなんてきっと見えていなかった。
あろうことか、Aのことさえも。

心酔していたんだと思う。
大切な彼女のために頑張ってる俺、っていう
そんな虚像を、理想郷を、自分の中に創り上げて。
本当はAはそんなもの望んでなかったんだって
当時の俺に気付けるはずもない。


それを告げられた2年前。
俺の命綱が、切れた気がした。

別れたいと呟いたAの目は、真っ直ぐだった。
ああこいつ、俺のこと全然好きじゃなかったんだな。って、察した。

頭がフリーズして、走馬灯みたいに
初めて出会った日のこととか、Aのアパートに毎晩のように通ってたこととか
それ以上に、ひとりでいるときに思い出す、Aの存在とか
そういう大切なの、すげえスピードで頭に流れてきて。

だめだ俺、別れちゃだめだ。
本能で、理解した。

この切れた命綱を、必死で手繰り寄せて、繫ぎ止める。
別れたいと言われたあの日から
毎日俺がしていたのは、それだけ。






4年記念日を2ヶ月後に控えたある日。

俺はここまでちゃんとAを繋ぎとめて
たまに思い出したように言ってくる「別れたい」を、なんてことない顔で回避して。

あーいつまでこんな茶番続けんのかなあ
なんて、そんなことを考えながら ジムでトレーニング。
ため息ついたら、ちょうどメンさんが入ってきた。
俺の隣のバイクに跨って、テレビ見上げながら話しかけてくる。

「なんか落ちてる？また彼女？」
「…うるさいっすよ。」
「いやいや、話しかけてオーラ満載だったじゃん！」
「そんなことないです。トレーニングに集中してください。」
「ほんと生意気だな！年上年上！」

はあ、とまたひとつため息をついて
バイク漕ぎながら携帯を手にした。
ちょうどそのとき、マネージャーさんから連絡が入って
なんと再来週から5日間、少し早めの冬休みを貰えることに。
年末特番の収録が入る前に、ということらしい。

メンさんに教えたら、よっしゃ！ってガッツポーズしてる。
どこか行く？って、話した。
ああAも連れてってやりたいなって、思った。


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