240メートルの誤算【佐野玲於】

不安 ページ10

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一度冷静になってしまったら
もう絶対、前みたいには戻れない。
なんでか分かんないけど、不安に押しつぶされそうな毎日だった。

玲於くんに会えない日は、不安でつらくて
来てくれたときは嬉しいのに、楽しそうに仕事の話をされると、どうしても泣きたくなった。

仕事をしてるときの、みんなが好きな玲於くんは、嫌い
わたしの狭い部屋で
ふたりでくっついてゲームしたり、漫画読んだり、そのときの玲於くんは大好きでたまらないのに。

不安で不安で、ひとりになると泣いてばかりいて
でも何が不安なのかもよく分かんないし
どうしたらこの気持ちが晴れるのかも分かんないし
ひとつだけ確かだったのは
玲於くんが芸能人であることが、とても大きな問題だったってこと。


そんな状態で数ヶ月を過ごしたある日
玲於くんがついにわたしの異変に気付いた。
どうかした？って聞いてくれて
弱くなりすぎていたわたしは、それだけで泣いちゃって
泣きながら、全部話した。

仕事をしている玲於くんが嫌いなこと
自分に自信が持てないこと
なぜか毎日不安で仕方ないこと

玲於くんは黙ってそれを聞いてた。
何を考えていたかはわからないけど
そのあと言われた、仕事とAなら仕事を選ぶって言葉に、もしかしてわたしたち終わっちゃったかなって思った。

玲於くんの答えがそれなら
もう何も言えないよ。

仕事辞めてほしいって、そんなこと思ってないけど
でも、結局そうなのかな
結局、この時のわたしの不安を取り除くには、玲於くんが仕事を辞めることしか 策は無かったのかな


「仕事は絶対捨てられないけど
それでもAとはこのままでいたいって思うよ」

それが、玲於くんがくれた 精一杯の慰め

ふつうのひととは訳が違う
今までデートなんてほとんど行ったことないし
明るいうちに会うことすら珍しい
友達が彼氏と行ってた遊園地にも一緒に行けない

そんなのは、どうだっていいの
忙しいのにここに来てくれるだけで、うれしいから
玲於くんが好きだし
玲於くんがいなきゃ生きて行けない
でも、玲於くんの存在が、わたしを弱くしていく


近いうちにきっと終わるって
そう思ってたわたしたちの関係は、それからもダラダラと続いてしまった

別れを切り出さなきゃいけないのはわたしで
きっと玲於くんもそれを待ってる
仕事に理解がなくて、ワガママばかりで
こんな彼女、めんどくさいに決まってる
別れたいに決まってる

でもわたしは弱かったから
どうしても、先に進めなかった

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