240メートルの誤算【佐野玲於】

臆病 ページ27

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次の日の朝
重たい瞼を開けて、アラームを止めた。
全然眠れなかったな
ひとりじゃ眠れないなんて、子どもみたいで嫌なのに。

そろそろ会いたい
今日とか、ダメかな
お仕事忙しいのはわかるけど、5分でもいいから 会いたい。
顔見て、ちょっとだけ手を繋いで
玲於くんの声を聞けたら、それだけでいいんだけど。

ため息をついて ベッドから降りた。
準備して 朝ごはん食べて、コートを羽織って家を出る。
風が冷たくて、余計寂しくなった。



[ きょう、忙しい？ ]

お昼
コンビニのおにぎりを頬張りながら、玲於くんにそうラインした。
向こうもちょうど空き時間だったのか、すぐ既読がついて

[ 夜まで仕事だわ ]
[ どうかした？ ]

…どうかした？だって。
会いたいよーなんてかわいいこと、今更言えないし
察してよ、って言うのは ワガママすぎるし

[ ううん、なんとなく。がんばってね ]
[ 電話する？ ]
[ 大丈夫 ]

お昼もひとり、夜もひとり
なんて寂しい人生なの、なんて悲劇のヒロインぶってたら
突然電話が鳴り出した。
見たら、玲於くん。
どきってして、慌てておにぎりを口に詰め込み
誰もいない給湯室に駆け込む。

「もしもし、」
『俺。いま休憩中？』
「あっ、うん。」
『…なんか食ってる？笑』
「おにぎり。」
『あー…んー、エビマヨ。』
「あ、惜しい。唐揚げマヨ。」
『いやそれほんとにデブじゃんやめてよ。』
「だって美味しいから。」

ふはって、玲於くんが笑った。
久々に聞いたその笑い声が嬉しくて、にやにやしちゃう。

『で？今日なに、暇なの？』
「えっ、あ、いや、」
『行こっか？遅くはなるけど。』

え！って
思わず口に出しそうになる。
来て欲しいけど、でも、遅くなるって

「…何時になりそう？」
『んー…1時に収録終わるから…2時とか。』
「2時？』
『うん。早くて2時かな。』
「……それは…」
『…さすがに寝てるか。ごめん、明日は行けるから。』

寝ないで待ってるから来てよ
って、たぶん、3年前のわたしなら言ってた気がする。
随分臆病になっちゃった。
迷惑かもって思ったら、何も言えない。

「…遅くまでお疲れさまです。」
『…めちゃくちゃ他人行儀じゃないっすか。』
「そんなことない。…じゃあ、電話ありがと…」
『はいはい。午後も頑張ってくださーい。』
「…玲於くんも。」
『うん、じゃあね。』

そのあとすぐ切られた通話に
全然かわいいこと言えなかったなって、また後悔した。

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