藤の花を添えて (ページ7)

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｢ありがとう｣

俯きがちに、ボソッと発した翔也の言葉はしっかりとAに届いた。

Aは翔也の隣に腰をおろす。

『いえいえ、おいしかった？』

二人の顔が見えるよう、少しだけ首を傾けて覗き込む。

こくっと、二人が頷いた。Aは安心したように微笑んだ。

それでも未だに警戒が解けないのか、口をぎゅっと結ぶ二人。

『ねえ、ふたりはおうちがないの？どこから来たの？』

恐る恐るAは汐恩と翔也に問いかけた。

想定はしていたものの、二人は俯いたまま言葉を発しない。うーん、とAは困ったように唸った。

その時、ひとつの考えがAの頭に浮かぶ。ハッとしたように突然立ち上がったA、驚いた汐恩と翔也はビクッと肩を上げた。

『ねえ、一緒にうちに帰ろう』
｢ … は？｣
『うちにおいでよ』

突拍子もないAの提案にあいた口が塞がらない翔也。汐恩も、怪しいものを見るような目でAを睨んだ。

｢バカ言わないで、僕達は君になんか着いて行かない｣
『どうして？ここに居たら死んじゃうよ』

翔也が言い返した。それでも引かないAに痺れを切らした翔也はグッと立ち上がろうとする。

しかし翔也が立つ前に、代わりに立ち上がったのは汐恩だった。

｢俺らがどんな奴か、知らんやろ｣

汐恩はAの肩を掴む。キリキリと食い込む指に、Aは顔を顰めた。

『痛いよ、汐恩 … っ』
｢痛いやろ？俺らがお前に何をするか分からないんやで？もしかしたらこれより怖い目に合わせるかも知れないんやで？｣

彼の瞳は、何かを恨んでいるようだった。

まるで、目の前で起こる真実も、風景も、何もかもを信じないような光のない瞳。

そんな汐恩と、2人の様子を心配するように見上げる翔也を交互に見る。

『 … それでも、放っておけない』
｢何でそこまで俺らに構うん｣

『分からない、でも、ただあなた達を放っておけないの。』
｢同情か？たい焼きひとつ与えただけで人助けしていい気分にでもなってるんとちゃう？｣

汐恩の言葉に、Aはなにも言い返せなかった。