藤の花を添えて (ページ8)

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震えるAに、汐恩はハッとする。

｢ … もう行け｣

Aの肩を掴んでいた手を離す。まだじんわりと痛む肩に、Aの瞳が揺れた。

ゆっくりと立ち上がる翔也。そして、Aを一瞥したあと汐恩にそっと駆け寄り｢行こう｣とその場を去ろうとした。

『じゃあ、言い方を変えるね』

去るふたつの背中を、Aは引き止める。

ふたりは振り向いた。生気のないその瞳をしっかりと捉えたAは、一歩前へ踏み出す。

『私と、友達になってほしいの』

Aのまっすぐな言葉は、汐恩と翔也の心を揺すった。

『どうしてこんなにあなた達を放っておけないのか、自分でも分からない。けどね、今ここでさよならしちゃったら、きっと私は後悔しちゃう』

ぐっと握った拳と、二人を見る視線。

それは、揺るがないAの覚悟の表れだった。

｢ … 君じゃ僕らを受け入れられないよ｣
『どうして？』
｢僕らは君みたいな真っ直ぐで綺麗なものしか知らない人間と一緒に居ちゃいけないから｣

自嘲気味に笑う翔也。もう日が落ちかけているせいか、彼の顔に射す陰が恐ろしい。

『それを決めるのは、私だよ』
｢ほんと物分りが悪いね、君は｣

『君じゃない』
｢え？｣
『白岩A、私の名前。』

Aは一歩2人に近づく。それに合わせ、汐恩と翔也は一歩退いた。

『私が怖い？』
｢信用できないだけ｣
『そう。じゃあ、信用できるまで一緒にいよう。大丈夫、私はあなた達が思うほど賢くないから、何かを企むなんてできないよ』

Aはまた一歩、一歩と足を進める。

もう、二人はAから逃げることはなかった。

『一緒に帰ろう』

Aの小さな手が、汐恩と翔也の手を握る。

神社の敷地を出た頃には、もうすっかり辺りは薄暗くなっていた。