藤の花を添えて (ページ4)

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小さな手提げを揺らすAの心は、満足感と達成感で溢れていた。

お目当てのかんざしを無事買えた嬉しさで、思わず頬が緩む。

『家に戻ったらお兄様に自慢しなきゃ』

今日は天気が良い。

Aの心情を表すかのように、太陽の陽気があたたかい。

江戸の街は大変賑やかである。

幼少期をほとんど御屋敷の中で過ごし、外を知らなかったAにとって江戸の街はいつ来ても新鮮で刺激的だった。

｢いらっしゃいませー！｣
｢安いよー！ウチでしか味わえないよー！｣

四方八方から聞こえてくる威勢の良い声、美味しそうな匂い、鮮やかな街の色。

どこを見ても飽きないこの景色が、Aは好きなのだ。

『あ、あれ … 』

ふと視線を向けた先に、たい焼き屋を見つける。

家を出る直前に見た、瑠姫の心配そうな顔を思い出した。

『 … お兄様に買っていこうかな』

気づけばAの足はたい焼き屋へと向かっていった。

『あの、たい焼きふたつください』
｢お、可愛いお嬢さんだね！毎度あり！ひとつオマケしておくよ！｣
『わ、ありがとうございます … ！』

紙袋を受け取り中を見ると、Aの鼻をかする焼きたての良い匂い。

喜ぶ瑠姫の表情が浮かぶ。

思わず垂れそうになる唾を飲み込んだ。

かんざしを買えた喜びよりも、Aの頭の中をいっぱいにしているのは瑠姫とたい焼きを食べることだった。

その場で食べたくなる気持ちを抑え、紙袋を握り御屋敷へと向かう。

段々と、江戸の賑やかな音も景色も遠ざかって行った。