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『さ、さっき帰ってきたところ!ただいま!』
「ん … ?」
Aの声に、汐恩が目を覚ます。慌てたAは急いで掛物を汐恩の頭から被せた。
「ちょ、何するん」
『ごめん!ちょっとこのまま待ってて!』
Aはバタバタと廊下へ出て行った。
廊下へ出ると、そこには腕を組んで不思議そうにAを見つめる瑠姫がいた。
「俺、表の庭にいたのにAが帰ってきたの気づかなかったんだけど」
『そうなの?あ、何か用?』
大丈夫、平然を装えているはず。ドキドキする胸を鎮めながら、Aは中にいる二人に気づかれまいといつも通りを演じる。
「夕飯できたってさ。だから呼びに来た」
『わかった。あ、あのね、今日体調が悪いから部屋でゆっくり食べたいんだけど … 』
「は?そうなの?どこか痛い?」
『たぶん一時的なものだから … !薬も飲むから大丈夫だよ』
Aの様子にどこか違和感を感じながらも、瑠姫はそれ以上何も探ることはなかった。
夕飯持ってくる、と廊下を戻る瑠姫を見送ったAは急いで部屋へ入った。
掛物をかけた大きな"塊"をめくってみると、眉間に皺を寄せる汐恩と不安げな翔也。
ご飯持ってくるから待っててね、とAが声をかけると、むくりと二人は起き上がった。
『お兄様が持ってくるだろうから、あとちょっと静かにしてて』
「持ってくるのお前のやろ、お前の飯はどうするん」
『私はあとで台所からてきとうに持ってくるよ』
「"盗む"の間違いでしょ」
『 … へへ』
正直、この時のAは自分の空腹などどうでもよかった。ただ目の前の二人に、少しでもお腹いっぱいになってほしかった。
元々Aの夕飯になるはずのものを二人に食べてもらうのだ、満足ではないものの空腹を紛らわせるには十分だろう。
その後、瑠姫が持ってきた夕飯は部屋の前の廊下に置いてもらった。
心配だから部屋に入る、としばらく言って聞かなかった瑠姫を説得することが大変だった。
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作者名:ヨカ | 作成日時:2021年10月13日 19時