解雇されました ページ20
Aside
「美味しい。相変わらず料理上手いな」
『ありがとう』
「ん、おかわり」
そう言って図々しくお皿を私に渡す佐野。私はため息をつきながらも受け取り、少し底のあるお皿にビーフシチューをよそった。定時で上がれたご褒美に少し奮発して高いお肉も買ったけど、こうして誰かに振る舞えて良かった。
佐野にお皿を再び渡し、椅子に座る。美味しそうに食べる彼を見ながら、昔の面影を感じていた。
『…何か不思議だね』
「何が?」
『佐野が、昔と何も変わってないように思っちゃうの』
食事する時の姿勢は勿論、表情や好きな具を最後に残して食べてしまう所とか、全部全部昔と変わらない。けど、どこか空っぽに見えるのはきっと気のせいではない。すると、佐野のスプーンを持つ手が止まった。彼の顔が銀色のスプーンに反射する。そこで一瞬目が合ったような気がした。
「……お前の前だけだよ」
『え?』
「何でもない」
私は佐野の言った言葉を聞き取れなかった。そのせいか、美味しそうに食べていたさっきまでの顔とは裏腹に、どこか不服そうな顔をして、彼は再びビーフシチューを口に運び始めた。
数分後、「ごちそうさま」と声が聞こえたと思ったら、佐野は立ち上がりお風呂場の方へと歩いていった。まるで自分の家かのように行動する彼に呆れながらも、ミーちゃんのいるソファ前のカーペットで体育座りし、「ミャー」と鳴くミーちゃんの頭を撫でる。
「ミャー」
『…んふふ、佐野に撫でられるの気持ちよかった?』
「ミャー!」
『ミーちゃんも佐野が大好きなんだね。私も大好き』
そして私はしばらく体育座りのまま俯いた。
・
「良い湯だった」
『それは良かった』
佐野はかなりの長風呂らしい。一時間近く入ってやっとお風呂場から出てきた。着ているのは私の黒いシャツとユルっとしたスウェットズボンなのだが、身長のせいか丁度良く見える。本人は気にしてるようだから絶対に言わないけど。そして、佐野が入浴しているその間に私は食器洗いを済ませてしまった。梵天について調べる予定だったのに、想定外のことが起こりそれ所では無かった。
『ていうか、いつ帰るのアンタ』
「まだ肝心な話してねぇもん」
『会いたいから来たんじゃないの?』
「それは半分。もう半分は、お前を解雇したって話しに来た」
『……解雇??????』
佐野の唐突な発言に、私の頭の中はハテナマークでいっぱいだった。
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エリザベス女王 - う、、、目から滝が、、、!武道のタイムリープで幸せになってるといいですねぇ、、、✨三途君の恋が、、、あの裏には恋心があったなんて、、、⁈伏線回収上手すぎです‼︎素敵な小説ありがとうございました! (2022年7月29日 19時) (レス) @page47 id: c75fcc9307 (このIDを非表示/違反報告)
ひめ☆そら(プロフ) - ち ゆ。さん» ちゆたん…!!こちらこそ読んでくれてありがとう( ᵒ̴̶̷̥́ ⌑ ᵒ̴̶̷̣̥̀ ) (2021年10月30日 16時) (レス) id: f06e616829 (このIDを非表示/違反報告)
ち ゆ。(プロフ) - 最初から最後まで感情が揺さぶられて毎度ページを開く度にドキドキしまくった…(><)ラストの方ほんとにしんどくて心臓きゅってなった(;;)辛いけど綺麗な終わり方しててとても感動しました!素敵な作品をありがとう! (2021年10月30日 12時) (レス) id: 7bb8e59749 (このIDを非表示/違反報告)
ひめ☆そら(プロフ) - ゴリラの末裔さん» お返事遅くなってしまい申し訳ございませんっ!勿体ないお言葉…!!ありがとうございます!!! (2021年10月13日 23時) (レス) id: f06e616829 (このIDを非表示/違反報告)
ゴリラの末裔 - 神はここにいた、、、、、 (2021年10月10日 23時) (レス) @page47 id: 566df7a38f (このIDを非表示/違反報告)
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