深愛モラトリアム【2】 (ページ5)

今日:2 hit、昨日:20 hit、合計:86,254 hit

52 ページ5

.

柏「私と彼女は中学から大学まで一緒だった
　そして、あなたの父親である
　彼女の恋人は大学で知り合った人」

　『父も知ってるんですか？』

柏「ええ、よく知ってるわ
　二人はとても仲が良くて
　いつも一緒に居たから私も彼に
　会う機会が結構あったのよ」

柏木さんは「懐かしい」と
時折、微笑みながら話してくれた

柏「二人は大学１年から付き合い始めて
　卒業したら結婚をする約束をしていた
　その約束をした時に彼から彼女に
　プレゼントしたのがAさんが付けてる
　そのネックレスなのよ」

　『これが…』

柏「そう、彼の手作りで
　彼女は肌身離さず着けていたわ」

私が母に会いたくて
ずっと身に付けていたネックレス

もしかしたら母も同じように恋人を想い
このネックレスを
握りしめていたのかもしれない

柏「でも…大学を卒業する前に
　彼が事故で亡くなったの」

　『……え？』

紫「…じゃあ、父親も居ないんですね」

柏「………そうです」

　『だったら…私はいつ母親のお腹に？』

柏「彼が亡くなってすぐに妊娠が分かったけど
　彼女はまだ学生で父親である彼も居ない
　両親からは出産を猛反対されたんです
　でも…彼女は産むと言い張って
　ついには家を出て私の家に居ました」

両親に反対されていたから
いざ産んでみても頼る人が居なくて
どうしようもなくなって施設に置いて行った？

そんな勝手な妄想を進めてしまったら
母親に対して苛立ちを感じた

　『…産んでから、どうしようも
　出来なくなったってことですか？』

柏「そうじゃないの…
　彼女は簡単に産むことを許されなかった
　その後…更なる不幸が彼女を襲ったんです」

この後、涙を堪えながら話してくれた
柏木さんの話に
私は相槌すら打てなくなって

その情景、感情を想像すると
話が終わるまで言葉が出なかった

.