深愛モラトリアム【2】 (ページ29)

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これ以上は紫耀に嫌な思いをさせたくない
そんな焦りを感じていたのに
「YURIさんはどうですか？」なんて質問が
また司会者の口から私へと向けられる

　『…とんでもないです、恐れ多いです』

司「そんなことないですよ
　とてもお似合いですよね？」

会場を盛り上げる為に司会者が客席に向けて
こんなヒヤヒヤとする言葉を投げかけると
また鳴り止まない盛大な拍手が響き渡った

私が愛しているのは紫耀なんです
…と、言えないもどかしさ

芸能界に居る限る
きっとこのやり切れない想いを
抱え続けなければならないんだ

そんな諦めに近い感情を心の中で
芽生え始めさせている時だった

左の腕に強い力を感じたと思ったら
お客さんの顔やフラッシュの光が
ぐらりと揺れて見えなくなり
体が勝手に向きを変えたのを感じたんだ

そして、やっと定まった視界に映る
紫耀の顔を確認するよりも先に
唇に何度も交わした彼の温もりが重なる

先ほどまで鳴り止まなかった拍手が
突然聞こえなくなると
代わりに空気の音が
聞こえてきそうなほどの静寂が広がった

…今…何が起きているの？

確か舞台挨拶中だったはずだよね？

それなのに紫耀とキスを交わしているのは

……何故？

頭の中で可能性や仮説を
いくつも作り上げようとしたけれど
驚きのあまりに何一つ考えられない

…すると、ゆっくりと離れた紫耀の温もり

再び視界に戻って来た彼の顔は
ふざけている様子も無く
真っ直ぐに私を見つめる

紫「……ごめん、限界」

　『…………え？』

私に呟いたのは、この一言だけで
改めて向きを変えた紫耀は
マイクをしっかりと握りしめて
客席を見渡し決意を込めたように
大きく息を吸い上げ言葉を発した

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