深愛モラトリアム【2】 (ページ30)

今日:7 hit、昨日:17 hit、合計:86,302 hit

◇ ページ30

.

紫「彼女は俺の大切な人です
　岸くんには渡すことはありません」

紫耀の声がマイクを通して
この会場全体に響き渡る

静まり返っていた会場で
カメラのシャッター音が一つ鳴ったと思ったら
一斉にフラッシュが光り
客席から悲鳴に近いどよめきが湧き上がった

　『紫耀！？』

紫「ふふ、言っちゃった」

我に返り慌てて紫耀の腕を掴んだけれど
彼はすごく嬉しそうで
さっきまでの拗ねた顔とはまるで別人だ

司「お付き合いされてるのですか！？」

紫「はい、彼女とは子供の頃から一緒で
　ずっと想い合っていたんです」
　

舞台の袖で私のマネージャーさんが
オロオロと右往左往して居るのが見える

きっと、これは芸能界では有り得ないこと
もしかしたら明日はネット上で記事になり
紫耀の周りは大騒ぎになるかもしれない

だけど…そんな一大事が
目の前で起きているというのに
私は紫耀がメディアの前で
はっきりと言葉にしてくれたことが
本当は嬉しくて堪らなかったんだ

紫「これから先も
　彼女への気持ちは変わりません
　大切に守り続けますので
　今後とも二人を宜しくお願いします」
　

　『……紫耀』

凛とした横顔で強く意志を示し
こんなにも嬉しい言葉を言ってくれた紫耀は
客席に向けて深く頭を下げた

ここに来ているのは
紫耀や岸さんを応援している人たち

そんな人たちの前で交際を宣言するのは
きっと、相当な覚悟だと思うんだ

だから紫耀の気持ちを無駄にしたくなくて
私も彼の隣に並んで同じように頭を下げた

.