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結局、ゆづくんと私とインストラクターさん一人の三人が料理担当で、残る織田くんたちはホントにゲームを始めたようで、リビング奥では賑やかな声が上がっている。
そんな声に「ノブくんめっちゃうるせぇ〜」「あの人結婚してるのにこんなとこいていいの?」なんて笑ってて、さっきの空想がホントになったような、時間が戻ったような錯覚をおぼえた。
「でもあれじゃない?こういうの初めてだよね。みんなで一緒にごはん食べたりはあるけど、作るのはね。Aは自炊してる?」
買った食材を並べながらゆづくんが言う。
「一応するけど、一人暮らしだと節約のためって感じかなぁ。友達と2人でやったりすると、調子に乗って作りすぎちゃうんだよねー」
「そうそう。あと、変な味の開発とか始まる」
「おいおい、今日はそれナシにしようね〜」
そんなツッコミが入って「えー、どうしよっかな〜」なんて笑いあって……。
2人きりじゃないからっていうのもあるけど、今は自然に笑えてる。そんな気がした。
錯覚のマジックかな……。
でもそんな魔法は長く続いてはくれなかった。
調理が進んでいく中「あれ〜」というゆづくんの声にサラダ用の野菜をちぎる手を止めた。
「なに?どうかした?」
言いながら振り向くと、冷蔵庫をのぞき込んでいたゆづくんが「牛乳きれてる…」と呟く。
うーん……。牛乳がないとハンバーグ作れない……よね?
「まだあったと思ったのに。あー失敗した〜」
どうしよ…と困った顔のゆづくん。
私買ってこようか?と言おうとした私の後ろから
「あ、じゃあ私買ってくるわ。ビールも飲みたいし。ちゃんと片付けるから飲んでもいい?」
そんなお伺い付きでインストラクターさんが名乗りを上げて、「いいっすよ」とゆづくんが笑う。
2人のやりとりを余所に内心では突如焦りが渦巻いた。
2人にしないでほしい……。
なんでこんなことくらいで緊張してるの。しっかりしなきゃ。
そう自分を叱咤しても高まる緊張がじわじわと襲ってくるようだった。
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作者名:mirin | 作成日時:2021年3月6日 15時