38 ページ39
.
「静葉ちゃんってのはな…」
近藤さんが俯いて悲しそうにいう。
「…おい近藤さん、いくら似てるからって出会ったばっかの餓鬼に……」
「いい。総悟が失礼なことをしてしまったんだ。その理由くらいは説明しねェと、筋が通らねェだろ」
大串くんの紫煙が天井に吸い込まれていく。
銀さんはさして興味もなさそうに鼻をほじっていた。当の私は、なんだか酷くいたたまれない気持ちで正座をし、縮こまっていた。
「総悟の、幼馴染の女の子なんだ。最近、原因不明の難病で亡くなっちまって……。見た目は、ほんとにAちゃんにそっくりでさ、」
少しだけ揺れた優しげな慈愛の瞳を向けるその人が見ているのは、笑いかけているのは、きっと私じゃない。私の奥に見ているのはきっと、その彼女なのだ。
「……総悟は本当に静葉ちゃんを大事にしててね、ミツバさんの次に…」
「!!!ミツバさんは!?ミツバさんはどうしてらっしゃるんですか!?」
近藤さんの言葉に被せるように言葉を吐き、近藤さんの肩に手を置く。
おい!なんて窘める銀さんの声が隣から聞こえたけれど、もう遅かった。
「………ミツバさんを、知ってるのかい?」
「……ミツバさんには、小さい頃、お世話になった節があって」
嘘じゃない。この世界のミツバさんは違うけれど、本当にそうなのだ。
そして、私が知っているミツバさんは、もう、いない。姉さんと一緒。…正確にいえば、姉さんはまだ生きているかもしれないけれど、ミツバさんは、亡くなってしまった。私と沖田が十六歳、たった去年のこと。
彼女が十六を迎えてからは終兄さんの助けも借りずに、ミツバさんが働いて生活費を稼いでいた。もともと体の弱かったミツバさんは、毎日のように働いたせいで弱かった肺を患い、帰らぬ人となったのだ。
「………ミツバさんは、最近、もともと患っていた肺が悪化して亡くなってしまったんだ」
……ああ、なんて救われない話だろう。
.
9人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ティアー(プロフ) - *天 神*さん» 閲覧ありがとうございます!更新スピードは遅いですが頑張りますのでどうぞよろしくお願いします! (2018年9月2日 20時) (レス) id: baa942cd57 (このIDを非表示/違反報告)
*天 神*(プロフ) - 初コメ失礼します。面白いです!文才がすごすぎです。更新楽しみにしてます、頑張ってください。 (2018年9月1日 0時) (レス) id: 537ce569f0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ティアー | 作成日時:2018年8月29日 12時