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私が、中学二年生のときだった。
姉さんはもうすぐ二十歳を迎える、そんな日のこと。
「姉さん!ただいま、」
今日は休日で、部活帰り。姉さんは仕事が休みだった。
「……A、おかえり…」
明らかに元気のない姉さんが顔を出す。
「…姉さん?どうかしたの」
酷く顔を歪めて、眉を顰め、唇を噛んでいた彼女。
すぐさま駆け寄ってどうしたのかと尋ねる。
「……なんでもないよ。少し気分が悪くてね。ちょっと寝ててもいいか?」
「うん!ちょっと待ってて、布団敷くから!」
「…いや、いいんだ、ソファに寝てるから」
すぐにソファにもたれかかった姉さん。
寝かしておこうと、毛布をかけて電気を消し、私は沖田の部屋に出かけた。
私はもうこのとき、クラスで一度からかわれてしまったためにそーちゃんという呼び名をやめ沖田と呼んでいたし、登下校も共にはしなくなった。それでも家に帰れば昔と同じように遊びに行ったり一緒に食事をしたりしていた。
「沖田」
「なんでィA」
「ちょっと姉さんが中で休んでるから暫くいさせてくんない?」
「今開けっからベランダからは入ってくんなよ」
前科がある私は指を指して咎められ、ちぇ、と呟いて玄関に回った。
「ありがと、沖田」
「はやく入りなせェ、風邪ひくぞ」
その日はもう夏の終わりで、大分冷え込んでいた。外に覗く満月になりかけた月が綺麗な黄昏時だった。
私は沖田の家で家探しやら漫画を読むやらして、そろそろ七時ということで退散することにした。
家に入ればまだ、電気はついておらず、姉さんはソファにもたれかかったままだった。
綺麗な横顔を見つめていればふと気づく。
姉さんの頬に、一筋、雫が光っていた。
苦しそうに顔をゆがめて泣いているその人。
頬に手を伸ばすことさえ出来なかった。
「ね、さん………?」
酷く驚いた。
姉さんが私の前で、いや、私が気付いている状態で泣いているのは初めてだったから。
「か……さん…、と、さん」
聞こえてくる単語に目を見張る。
私が今まで幸せだったのなんて、やっぱり彼女を踏み台にして、その犠牲の上に成り立った形だけの幸せだったのだ。
「………空っぽなだけの幸せなんかいらない。
姉さん、行かないで……」
姉さんが消えてしまうような、
そんな錯覚に襲われた。
そしてその錯覚は正夢のようなものであったことを、数時間後、私は知ることになる。
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ティアー(プロフ) - *天 神*さん» 閲覧ありがとうございます!更新スピードは遅いですが頑張りますのでどうぞよろしくお願いします! (2018年9月2日 20時) (レス) id: baa942cd57 (このIDを非表示/違反報告)
*天 神*(プロフ) - 初コメ失礼します。面白いです!文才がすごすぎです。更新楽しみにしてます、頑張ってください。 (2018年9月1日 0時) (レス) id: 537ce569f0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ティアー | 作成日時:2018年8月29日 12時