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太宰「そうだね。……確かに私は、世界にそれほど関心がある訳でも無い。消滅しようが知ったことじゃあない。他の可能世界の私なら、きっとそう云うだろう。でもね
すると太宰は不意に芥川の方を見た
太宰「……芥川君、奈穂ちゃんのこと、よろしく頼んだよ」
芥川は目を見開いた
太宰「やっぱり、私に勝ち目はないみたいだ」
そう云った太宰はどこか悲しそうな笑みを浮かべた
風が太宰を招くように強く吹いた
太宰の体が後ろに傾く
太宰「ああ、ああ、ああ」
ゆっくりと目を閉じた太宰は、夢を見るような笑みを浮かべた
太宰「ついにここまで来た。待ちに待った瞬間だ。楽しみだ、本当に楽しみだ。………でもね、心残りもある。君がいずれ完成させるその小説を、読めないこと。今はそれだけが、
少し悔しい」
太宰の体が縁を越えた
長い長い距離を、重力に引かれながら落ちていく
笑みを浮かべながら、太宰は屋上から消えた
一瞬だけ見えた階に、奈穂の姿が見えた
奈穂は目が合うと、大きく目を見開いていた
太宰は穏やかな表情を浮かべた
そして、口元が動き、ある言葉を奈穂に伝えた
そのまま、太宰の体は地面へと落ちていった
風が強く吹いた
赤い夕焼け
赤い敷石
ポートマフィアを統べ、横浜の闇を支配した男
誰にも考えられない遠大な計画を組み立て
万人の運命を掌握し操った男
その日、彼は望みの場所へ行った
人間には到達できないあちら側へ
それが本当に価値のあることなのか、芥川には判らない
横浜を吹き通る風だけが、全てを知り、見下ろしていた
・
〜奈穂side〜
もう駄目だ
私は探偵社員にはなれない
手を汚してしまった
もう二度と、人は殺さないと決めていたのに
ごめんなさい芥川さん、みんな、殺してしまったみんなも
怖かったの
みんなが傷つけられるのが怖くて、本能のままに暴れた
本当にごめんなさい
もう此処には居られない
誰も知らない遠い場所で死んでこよう
そうすれば、多少は許してくれるのかな
奈穂──────────!!
そんな思いが消え去る声が、私の耳に届いた
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作者名:るーりん | 作成日時:2022年12月29日 0時