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短見により妹を失わせ、彼女のことを一切守れなかった男。仲間の仇をとると云ったのに、結局は命を無駄にした邪悪な男。邪悪な敵にして悪
四年半前のあの日に、心なき狗に感情が芽生えたと同時に生まれた獣
芥川は思う、織田先輩の云う通りだと
己という獣を追ってはならない。何故なら勝てないからだ。自分自身に勝てる人間なんて存在しない
だが引き分けに持ち込むことはできる
このまま目を閉じていれば、自分は確実に死ぬ。それで復讐は終わる。それで初めて、心置き無く眠ることが出来る
どん底で育ち、誰にも頼られず、誰にも顧みられず、絶望と怨嗟の中でのたうち回るしかなかった自分が、ようやく救われる、ようやく仲間と同じところへ行ける
ならば、もう──────────
探偵社員は諦めん。立て、芥川
力強い声が聞こえた
目を開くと、目の前には無線機が落ちていた。敦の懐から落ちた物だ
声の主は、国木田だった
《
音声の裏では、賢治の声、破砕音、銃声が聞こえる
《立て芥川。知らないなら教えてやる。救い出すべき誰かがいる時、探偵社員はこの世で最強の存在となるのだ》
僕は探偵社員ではない
そう云おうとしても、声が出ない
本質的に"悪"である己に、探偵社員となる資格は無い
《お前は悪ではない》
芥川の心を見透かしたように国木田は云った
《まだ何者でもないだけだ。善き側に立て、俺たちと共に。──────お前を正式に合格とする。今この瞬間から
──────────お前は、探偵社員だ》
芥川が目を見開いた
眼前には、白く輝く鋭利な虎の爪。一片の雪のように、ゆっくりと降りてきているように見える
─────探偵社員だと感じた瞬間から、君は探偵社員なんだ。その事が、君に必ず力をくれる。君はそれを信じるだけでいい
その時
芥川は織恋侍色の道の中に立っていた
目の前には、奈穂がいる。この光景は、見覚えがある
織田からのいいよカードの依頼が終わった日、芥川は奈穂に話していた
もしかしたら、自分は悪側の人間なのかもしれないと
ただ単にもしかすればそうなのかもしれないと、薄々思っていたことを、芥川は奈穂に云った
奈穂は、なんと答えたか
その時の音が、声が、表情が、鮮明に蘇ってきた
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作者名:るーりん | 作成日時:2022年12月29日 0時