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銀はよろけもせず、床を蹴って跳躍し、後退した。芥川は脇腹を押さえていた。痛みに表情が歪んでいる
芥川の脇腹には、
芥川「銀……何、故………」
銀は静かに立ち、芥川を見詰めていた。そして
銀「首領の云った通りだったわ」
と、後ろでまとめられた髪を揺らしながら云った
銀「貴方はたった今、敦さんを殴り殺そうとした。私を救うために必要な案内人なのに。奈穂さんも、助けられるのに」
芥川「違う、あれは」
短刀で刺された傷跡から血液がこぼれ落ちていく。芥川の衣服が赤黒く染まっている
銀「兄さんは、私なんかどうでもいいの。他の人間の誰もどうでもいい。関心があるのは自分だけ」
銀は目を伏せ、少し悲しそうな表情をした
芥川「違う、僕は、お前を助け、ようと」
銀「いいえ。あの日と同じだったから」
透徹した響きを持った声が、芥川の言葉をかき消した
銀「あの日、兄さんは、怒りと復讐に囚われた。無法者を葬るため、林の中へと走って消えた。でもどうして？
芥川「それ、は」
銀「本当に復讐を思うなら、仲間の仇を願うなら、襲撃の前に計画を練ったはず。負傷を癒し、相手を調べ、辛抱とよく機を待ったはず。でも貴方はそうしなかった。ろくに作戦も立てず、怪我をした私を放って、敵の懐へと飛び込んでいった。まるで、復讐の炎を、楽しむように」
芥川「違う、銀、僕は」
銀の目は恐ろしく冷たい。それは断罪の目をしていた
銀「違うなら、証明して。私をここで納得させて。あれば遠大な計画だったと。気に入らない世界を、獣のように壊したかったではないと。お願い、云って」
芥川は口を開いた。完璧な言葉があった。一瞬で納得させ、帰ってきてくれる完璧な言葉が
芥川「それは」
完璧な言葉があるはずだった
芥川「それは………」
どこかにあるはずだった言葉は、10秒以上経っても出てこなかった
三十秒経っても言葉は出てこなかった。銀が、絶望したように目を伏せた
銀「私が戻れば、兄さんはまた私を云い訳に使うと首領は云った。周囲を破壊する云いわけに。私もそう思う。だから私は、あなたと一緒にはいられないわ」
銀は芥川から視線を外し、歩き出した
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作者名：るーりん | 作成日時：2022年12月29日 0時
