太宰治至上主義 [文スト] [男主]

＊ ページ38

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「影の中、如何だった？」




一度影の中に潜ったAは数秒の後、谷崎兄妹を連れて外に出て来る。谷崎とナオミは顔を青ざめさせていた。そんな二人に太宰が感想を問う。太宰は自身の異能である異能無効化の関係でAの異能を受ける事が出来ないのだ。


A程では無いが、太宰もまた影の中に入ってみたかったと少しだけ悔やんでいる。




「もう二度と入りたくないですわ…」


「真ッ暗で何も見えなくて、音も無くて、歩いても歩いても景色は変わらなくて、だんだん自分が存在しているのかすら判らなくなッて…」


「一種の拷問の様だな」


「ええ…Aは怖くないのかい？昔は何かあれば直ぐに潜っていたじゃない」


「慣れました」




と云うか其んなに頻繁に潜ってません。Aはにやにやと笑う太宰に冷静に云い返す。国木田は太宰の云う、Aの"昔の話"が気になったが、其れよりも谷崎兄妹が未だに青白い顔をして居たので聞く事は憚られた。


再び影の中に入る様な事が起きないのが何より善い事だがそう上手く行く職では無いんだよなぁ…とAはグロッキーな彼等に同情する。同じヨコハマに居るのだから運が悪けば夜のヨコハマを牛耳る組織と鉢合わせしてしまう事も有り得るのだ。谷崎の異能を使用すれば相手から姿こそ目視不可能だが、存在が消えるだけであって実体が消える訳では無い。即ち、攻撃がすり抜ける事は無いのだ。例えば、全方位から銃弾が一斉に発射された場合谷崎の異能では回避する事は出来ない。然し、Aの異能は影の中、詰まり地面に潜り込む為銃弾が何処から飛んで来ようと関係無い。


使い用によっては無敵(チート)の様な異能だ。




「暗いのは影自体が黒い物だから変えようが無いけど、音を出す事は出来る」


「何それ私知らない」


「其ンな事が可能なンですか？」


「是非お願いしたいですわ。再び入りたい訳では無いですけれど…」


「如何やって音を出す心算なんだ？」









「電池で動くCDプレイヤーを影の中に落とします」




真顔で告げたAに一同は何を如何返せば大真面目に考えて答えたAへ失礼に為らないのか脳をフル回転させる。然し最適解は太宰の頭脳を持ってしても導き出される事は無かった。

ナオミ→←＊

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