第９７話 ページ17
第９７話
規則正しい寝息。
寝てしまったAを横抱きにしAの部屋に連れていく。リビングにいたままじゃ風邪引くかもしれねぇからな。ちゃんと布団に入れてやらねぇと。
どうやら薬は本当に効き目がいいらしい。
帰りに助けた女性から貰った睡眠薬。それをコーヒーの中に入れた。それを口にしたAはものの数分で眠ってしまい、今は部屋に運んでいる。
Aの部屋に着くと、Aをゆっくり布団に入れて掛け布団をかけた。
「……………」
俺は一体、何をしているんだろう。
薬で眠らせた事に罪悪感がない訳じゃない。俺のしている事は、正直言ってかなり馬鹿げた事だ。もしかしたら異常な行為なのかもしれない。
だけど今の俺にはそれを考える余裕も、考えようとする意思もなかった。ただ目の前で静かに眠るAの頭をそっと撫でて、少し気分を紛らわす。
俺の想いは叶わない。
そう分かった途端、怖くなった。
俺が不用意に触れる事がAからしたら嫌な事なんじゃねぇかって。好きでもねぇ男に触れられるのは嫌だろう。爆豪だけが持つ特権。
けど、いけねぇことなのか？惚れた相手に触れたいと思うのは、そんなにダメなのか？
俺は一度、Aの唇を奪った。
その時はコイツが寝ていたから気づかれることもなかった。だから思ってしまったんだ。
バレなきゃ、いいんじゃねぇかって。
寝ている時しか、俺は触れる事も出来ねぇのか。
「……A」
名前を呼びAの頬を撫でる。ゆっくり顔を近づけ唇を重ねた。触れ合うとAの体温を感じる事が出来て、余計に離れ難くなる。
これが愛おしいと思うって事なんだろう。
まさか俺がそんな感情を持つ日が来るなんて思わなかった。そして相手がAになるなんて、少し前までは考えもしなかったのに。
ゆっくりと顔を離すとやっぱり少し寒い。俺だって男だ、惚れた相手が無防備でいる姿を見て何も思わないわけじゃない。けど、その一線を超えるつもりはなかった。
それは流石に…俺の理性がおさえている。今だって十分最低なんだろうが、その一線を超えてしまうと俺は二度とAの顔を見れなくなるだろう。
「……すまねぇ、A」
ぎゅっと力強くAを抱き締めた。
こんな事をして、俺は家族を名乗る資格なんてねぇ。今回限りでやった事、少しは気分も紛れるかと思ったんだけどな。
いざやってみたら、残ったのは虚しさだけ。
それだけが、増していく。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2121人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
m(プロフ) - 本当に素晴らしく感動して涙が出ました。素敵な作品、素敵なイラストありがとうございました。 (2021年8月30日 17時) (
レス) id: 2635dac9cc (このIDを非表示/違反報告)
Yuu(プロフ) - 素晴らしい作品をありがとうございます。ここ三年間くらい感動することは久しく無かったのですが、久しぶりに感動しました。ありがとうございます。 (2021年6月22日 21時) (レス) id: 375d648123 (このIDを非表示/違反報告)
名無し8446号(プロフ) - ガチで泣きました。 (2021年5月28日 14時) (レス) id: 300e87c18e (このIDを非表示/違反報告)
おーしゃんびゅー(プロフ) - (続き)作品がいいオチな分、考察が止まらず恐ろしいことを考えてしまいました(笑)長々と失礼しました。 (2020年11月22日 20時) (レス) id: 8df8463d93 (このIDを非表示/違反報告)
おーしゃんびゅー(プロフ) - (続き)夢主の個性によって轟くんの欲が増幅→夢主と逃げる→夢主が死ぬと考えると、個性によってサイコパスにならなければそのまま病院にいて、夢主は死ななかったのでは？と考えました。そうなると夢主の個性＝不幸にするということになり、振り出しに戻ります。 (2020年11月22日 20時) (レス) id: 8df8463d93 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：NAOKI
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/naoki-/
作成日時：2018年6月17日 10時
