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にじゅう ページ21

「…A、一人で苦しまないで。今までAが沢山俺たちを助けてくれた分、今度は助けさせてよ」



Aの後ろにたっていた及川も、岩泉に倣ってAの隣に屈む。
じっと見つめてくる茶色い瞳は真っ直ぐで、Aもその瞳から逃れることは出来なかった。
中学の頃から何度も見てきたはずの及川の瞳に、Aは今まで抱いたことの無いような、まるで被捕食者のような心地になる。
しかし不思議とそこに恐怖心はなく、むしろ温かみを感じていた。
そんな矛盾した感覚に困惑するように、ゆらりと瞳を震わせながらAは及川の目を見つめ返す。



「…おれは、なにも…」
「なにも?よく言うよ。俺が荒れた時も岩ちゃんが躓いた時も。俺たちだけじゃない。周りをケアしてくれたのはAだったの知ってるよ」



柔らかく目を細めた及川は、Aを安心させるようにそっと背中を撫でた。
いつもAがしてくれていた事だ。
追い詰められて、勝手に突っ走って、どうにもならないぐらいしんどいと思った時。
Aはそっと及川や岩泉の傍で背中を撫でてくれた。
そしてチームメイトたちに上手く話をつけ、部内の空気を一時も乱させなかった。

ひとりじゃない。
ひとりでやったってどうにもならないのがバレーだと、笑いながら話していたAを2人はよく覚えている。
あのときAがくれた言葉をそのまま返してやりたくなるが、そうした所で何も変わらない。
自分たちなりに、Aに伝えたい言葉を紡がなくては意味が無い。



「それにね、俺たちが勝つためにはAの力が、存在が必要なんだ。お前がいなきゃうちのバレー部は完成しない」



Aの頭に手を伸ばし、そっとその頭を撫でてみる。
チームメイトとして戦った中学の頃に撫でたっきりのAの頭はぴくりと揺れるも、されるがままだ。
及川はそのままAをみつめていれば、Aの瞳からぽろぽろと涙が溢れてくる。
Aが泣いているところなんて、見たことがあっただろうか。
怪我をしたあの瞬間だって、涙を見ていない気がする。
及川は初めて目にしたAの涙をそっと指先ですくってやると、Aは擽ったそうに目を細めつつもその涙が止まる気配は無い。
溢れてやまない涙にふと笑みがこぼれる。
やっと、ここまで感情を見せてくれた。
そう安心した気持ちでいると、今度は岩泉がポンっとAの頭に手を乗せて笑顔を見せた。



「帰ってこい。A」
「っ……うんっ……」

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ゆき(プロフ) - 赤憑さん» うわー!ありがとうございます!直しときます!!! (2023年4月28日 17時) (レス) id: 1fa030afc2 (このIDを非表示/違反報告)
赤憑(プロフ) - 面白い作品ですね!ところで…あの...ろく影山sideの話のところの西谷の漢字が西ノ谷になってます💦 (2023年4月28日 13時) (レス) @page7 id: 805737b448 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 天野さん» ずっと!?ありがとうございます!!今度は最後まで書き切りたいと思ってるので気長にお付き合いくださいませ!!! (2023年3月29日 10時) (レス) @page26 id: 1fa030afc2 (このIDを非表示/違反報告)
天野(プロフ) - 更新ずっと待ってました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ありがとうございます!!!!!!!!!!!!!! (2023年3月29日 8時) (レス) id: c3ca8d9a5e (このIDを非表示/違反報告)
八雲 - すっごい大好きです頑張って下さい!!!!!!!!!! (2021年8月22日 0時) (レス) id: 34dfb00aa4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆき | 作成日時:2021年5月21日 18時

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