じゅうさん ページ14
固い意思の籠った眼差しで及川が見つめたのは“網張A”と記されたテープが貼られているロッカー。
一年の頃から先輩に何度も頼み込んでロッカーを残してもらい、またAが使うから、と部長の権力を行使して残し続けているロッカーだ。
このロッカーにAが手を伸ばしたのは入部からインターハイまでの数ヶ月間だけ。
Aが部活に姿を現さなくなって一年経った頃には監督やコーチも説得しに来たが、及川は一度もこのテープを外すことをよしとしなかった。
たかがロッカー。
たかがテープ。
帰ってきたらその時にまた新しいテープを貼ればいいと何度も言われた。
及川自身もそれが間違いでないことはわかっている。
しかし、どうしても及川はこの“網張A”という字を残しておきたかったのだ。
全ては、及川自身のために。
Aはここに戻ってくるのだと、信じ続けるために。
及川は自らの強い思いで残され続けてきたロッカーを指先でそっと撫でると、静かに話を聞いていた部員たちへ視線を戻す。
「…今話せるのはこれだけ。もう一回俺がAと話してみるから、みんなはAを下手に刺激しないように」
帰り遅くなってごめんね、みんな気をつけて帰って。と告げながら及川は荷物を持ち、ドアノブへ手を伸ばす。
どこか哀愁を感じさせる背中を部員たちはじっと見つめていた。
なにも思わなかった訳では無い。言いたいことは沢山ある。
どうしてAが。
Aは本当に戻ってこれるのか。
なんて、今の及川には言える言葉ではなくて、口を噤むしかない。
そもそも励ますべきなのか、宥めるべきなのかもわからない。
そんな部員たちの中から一つの声が及川を呼び止めた。
その声によってピタリと足を止めた及川に「どうして」という言葉がかけられる。
その声をかけたのは国見だった。
国見は少し言いづらそうにしながら再び「どうして、」と口にする。
「及川さんはどうしてそんなに、網張さんを…」
国見のその言葉に及川はゆっくりと振り返る。
その表情は寂しげながらに優しい笑みを浮かべており、及川はその表情のまま口を開いた。
「Aは俺にとって誰よりも大事な人だから。それだけだよ」
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ゆき(プロフ) - 赤憑さん» うわー!ありがとうございます!直しときます!!! (2023年4月28日 17時) (レス) id: 1fa030afc2 (このIDを非表示/違反報告)
赤憑(プロフ) - 面白い作品ですね!ところで…あの...ろく影山sideの話のところの西谷の漢字が西ノ谷になってます💦 (2023年4月28日 13時) (レス) @page7 id: 805737b448 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 天野さん» ずっと!?ありがとうございます!!今度は最後まで書き切りたいと思ってるので気長にお付き合いくださいませ!!! (2023年3月29日 10時) (レス) @page26 id: 1fa030afc2 (このIDを非表示/違反報告)
天野(プロフ) - 更新ずっと待ってました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ありがとうございます!!!!!!!!!!!!!! (2023年3月29日 8時) (レス) id: c3ca8d9a5e (このIDを非表示/違反報告)
八雲 - すっごい大好きです頑張って下さい!!!!!!!!!! (2021年8月22日 0時) (レス) id: 34dfb00aa4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年5月21日 18時