絶賛、アプローチされ中。3【千切豹馬】

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そうこうしてるうちに家を出る時間がやってきた。


｢軽食準備してるから持っていくんだよ｣


｢おー、さんきゅ｣


忘れ物は……ないね、よし。


持ち物の最終確認をすれば出発準備が完了。


｢それじゃ、先出るね｣


私が先に家を出る時は毎度律儀に見送りをしてくれる豹馬。


｢シートベルトした？｣


｢したした｣


｢交通安全のお守り持った？｣


｢持ってる｣


恒例のやり取りを交わし、シフトレバーをドライブに入れてハンドブレーキを戻した。


｢運転気を付けるんだぞ｣


｢わかってますよ｣


｢A｣


豹馬は私を呼ぶとちょいちょいと手招きする。


ああ、と思い出して車窓から顔を出した。


軽く目を瞑って豹馬の唇が額に触れるのを待…


｢ぇ｣


額でも頬でもなく、出かける前に保湿した唇に感触があった。


驚きで目を開けば、とっくに元の位置に戻った豹馬がそこに指を当てて悪戯っぽく笑っていた。


｢今日は唇(こっち)な｣


これも、勝率を上げるためなのだろうか。


｢じゃあな、真田｣


｢へ、さなだ…｣


私を"真田"と呼んだ豹馬。


豹馬には呼ばれ慣れていないせいか、真田って誰だ、と一瞬だけ本気で考えていた。


生まれた頃からの付き合いである姓を呼ばれて不思議に思う日が来るなんて。


｢またあとでな。行ってらっしゃい、A｣


＿＿気のせいかな。


一瞬だけ、豹馬の笑顔が寂しそうに見えた。


｢いっ、てきます…｣


今日の豹馬は、ちょっぴり変だった。

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