62 ページ21
.
「来ちゃった」
走ってきたのだろう、膝に手をついて息を整えるAが額に汗を滲ませて笑う。
理解が追いつかないまま反射的に駆け寄った。
聞きたいことは山程あるけど、それよりも、
「お前って奴は…」
「んぐっ」
俺の体にすっぽり埋まるAの小さな体。
周りの目なんて気にせず、Aを強く抱き締めた。
「お、折れる…折れるから…!」
「あ、わりぃ」
強く抱き締めすぎたらしい。
体を離して顔を合わせる。
「学校は?」
「早退してきた。出発時間は伊藤君に教えてもらった」
ドヤ顔でピースをするA。
「ほんっと、どこまで可愛いんだよ…」
「よくわかんないけどありがと」
Aはそう言って、カバンからかりんとう饅頭を取り出した。
「餞別、くれてやる」
「くれてやるって…まあ、ありがと」
受け取って自分のカバンに潰れないように大事にしまった。
「もう満足したから、早く東京行きなよ」
「Aが勝手に来たんだろ、別れを惜しめよ」
「後悔しないために会いに来たの」
だからもう早く行け、とAは手を振る。
「え、なに?」
その手をぎゅっと握ると、僅かに震えてるのがわかった。
「向こう着いたら連絡する」
「うん、わかった」
「毎日メッセージ送るから返信しろよ」
「…うん」
「時間あったら電話もかけるから出ろよ」
「…ん」
徐々に震えが大きくなっていく。
泣いている姿を見せずに別れたかったのだろう。
だけど生憎、強がるAは見飽きている。
「今泣き尽くしといて。俺のいないとこで泣くなよ」
「…がんばる」
「あと目移りすんなよ」
「…こっちのセリフ。浮気相手はサッカーだけにしといてね」
「ははっ、なんだそれ」
俺の笑いにつられてAも笑顔になる。
湿っぽいのはもういいんだもんな。
それに、これは悲しい別れではない。
前を向くために必要な別れだ。
次会う時、Aに相応しいと思える自分を取り戻すために。
「それじゃあ、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
もう一度、本気でサッカーをやってみるから。
少しだけ待ってて。
1717人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
にいな(プロフ) - さくらさん» ありがとうございます!!何卒最後までお付き合い下さい〜!!♡♡ (4月12日 2時) (レス) id: f69c63ae39 (このIDを非表示/違反報告)
さくら - すごく面白かったです!頑張ってください!サイコー! (4月8日 20時) (レス) @page1 id: 2b4aba0b1a (このIDを非表示/違反報告)
にいな(プロフ) - 由衣さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます🥰これからも頑張れます👊🏻 (2023年4月11日 20時) (レス) id: f69c63ae39 (このIDを非表示/違反報告)
由衣 - この作品大好きであります…‼︎尊い…これからも更新楽しみにしています! (2023年4月10日 16時) (レス) id: ddafeb5c63 (このIDを非表示/違反報告)
にいな(プロフ) - うなぎポテトさん» お気遣いありがとうございます🙌🏻これからも頑張ります‼️ (2023年3月30日 20時) (レス) id: f69c63ae39 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:にいな | 作成日時:2023年2月2日 18時