7.本当は ページ7
「それ、僕が持っていってもいいですか。」
午後2時半。
Aの部屋へ向かおうとしていた私に、不意に後ろから声を掛けてきたのはイソップだった。
彼はここに来てから人が変わったようだ。
以前は彼から発信して話すなんてことは天地がひっくり返ってもありえない事だったのに。
それ、と指をさすのは私が今持っているタオルや飲料水などが乗ったトレー。
勿論断る理由は無いので快く承諾し、渡した。
イソップは彼女のことを偉く気に入っているようだ。
いや、それは彼だけに言えたことではないが…。
2階へと続く階段に向かって行く彼の表情は何処か穏やかで。
自身の胸の内が少しざわめくのを感じた。
リビングへ戻ると、ナワーブがカーペットの上で胡座をかいてテレビを見ており、その傍のソファーではマイクが横になっていた。
「寝てるのかな。」
「ああ。寝てばっかだな、コイツ。」
マイクの顔を覗き込みながら確かめるように問うと、テレビから目を離さずナワーブが答える。
そうだね、と笑いながら近くにあったタオルケットを掛けてやり、何か飲み物を飲もうとキッチンへ向かおうとすると、「なあ」と声が掛けられる。
「お前、ノートンとトラブったろ。」
「……、」
その質問はもう二回目だ。
だが、ナワーブに悟られるような言動はしていない。
イソップは告げ口をするようなタイプではないし、
マイクから何か聞いたか。
「別に誰かから聞いたとか、そんなんじゃねえよ。」
「ぇ…」
こちらを振り向いたナワーブはいたずらっ子のように笑う。
まるで心を見透かされているようだ…。
「お前はわかり易いよ、お前自身が思ってるよりも。」
「…君は、ひとの心が読めるんだった?」
「読心術はお前の十八番だろ。」
「まさか。」
私は決して読心術が使える訳では無い。
ただ、相棒を通じて見える視野があって、それがひととは違うだけ。
占い師とは名ばかりで、今は昔の様に未来を占うことすらままないのだから。
からかっているのだろう、この男は。
「んで、どうなんだよ。」
「…私と彼の間に何かあった訳では無いんだ。……いや、なかったと言えば嘘になるかもしれないが…。」
「………」
「私は、どうしたらいいのか分からないよ。…教えてくれ、どうしたらよかったんだ。」
誰かに答えを求めるなんて、生まれて初めてかもしれない。
今まで自分の道は全て自分で決めて進んできたから。
「…君の言う通りだ。私は、私の事を全然分かっていない。」
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【湖の宝石】(プロフ) - 最近また見直しているんですけど、ニヤニヤが止まらなすぎて親に白い目で見られる事もありますが、何度読み返してもやっぱりこの作品が第五人格で一番大好きです!素敵な作品を作ってくださり、そして今でも更新してくださり本当にありがとうございます!! (2022年6月21日 23時) (レス) @page1 id: 664df39994 (このIDを非表示/違反報告)
いくらちゃん。(プロフ) - 暁郗さん» イラストを褒めていただき嬉しいです!ナワーブくんはシリーズ1へお引越し、2にはイライくんのイラストが来るのでまた見てやってください! (2021年8月10日 13時) (レス) id: 30d3d73915 (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - 俺の推し(ナワーブ)がイケメンすぎて辛い、ありがとうございます……………。 (2021年5月4日 9時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - 待って待って待ってください、ナワーブ君のイラストイケメンすぎじゃないですか??え、推しが尊い(遺言) (2021年5月4日 9時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
いくらちゃん。(プロフ) - りなさん» 少しでも補給になっていれば嬉しいです!笑 (2020年8月31日 22時) (レス) id: 30d3d73915 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いくらちゃん。 | 作成日時:2020年4月10日 21時