【第五人格】今日から居候されます。2

29.その涙の理由 ページ29

「うるさい！！…皆して口を開けばAAって、あの女がそんなに大事なわけ！？」

耳を疑った。
あの誰にでも笑顔を振りまく、アイドルみたいなモートンさんが、勢い良く椅子から立ち上がって声を荒らげている。

興奮からか、肩を上下させていて、呼吸が乱れているのが分かる。

冷静ではない。

これは流石に止めなければまずいのではないか。


洗い物をしていた手を止めて、こういう場合に真っ先に仲介に入りそうなクラークさんに、助けを求めるように視線をやったけれど、彼は2人の様子をじっと見ているだけ。

キャンベルさんも同じだ。



状況に戸惑う僕を他所に、モートンさんは先程とは打って変わって、悟りを開いたような、わざとらしい声で笑ってから静かに口を開いた。

「…裏切るような人間じゃない、だって……？

仲間を裏切ってばかりだったナワーブに何がわかるんだよ！！！」


掠れるほどに声を張り上げて放たれた言葉。
その直後バチン、と乾いた音が部屋に響いた。



信じられるだろうか。



あのキャンベルさんが、モートンさんの頬を平手で殴ったのだ。

キャンベルさんは何も言わず、モートンさんをじっと見つめている。


大きく横に振り向かされたモートンさんの口からは、叩かれた衝撃で切れてしまったためであろう血液が一筋。





「………みんな、だいっきらい…っ」




涙で震えた声で一言そう言い残し、モートンさんはリビングから走って出ていった。

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