お隣さんが不審者なんですが【fj】 (ページ43)

今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:81,229 hit

お隣さん、四十日目。ページ43

「そっか。なら、俺と一緒にいてよ」

その言葉は、音としてしか入ってこない。
情報は右から左へ猛スピードで駆けていき、
私が理解する余裕すら与えられない。

「……え？」

そんな気の抜けた返事をするのが精一杯。
フジ君は私のすぐ傍らに来て、ぎゅっと私の体を抱き寄せた。
第三者視点で考えた時、既視感があった。

そうだ。
私が、やってあげたことだ。
フジ君が初めて、『俺は実況者なんだ』と打ち明けてくれたあの日に。

彼が覚えているかは知らないけど、それでもすごく嬉しくて、さっきまで疑っていたことが馬鹿らしく感じられた。

私の髪を撫でる手つきは優しくて。
いつの間にか泣きじゃくっていた私の背をポンポンと穏やかに叩いてくれることに安心しきって。
余計涙が溢れ出した。

「ごめんフジ君っ……服、汚れちゃう」

そのまま離れようとしたら、より強い力で押さえつけられた。
そういえば、フジ君は柔道をやっていたことがあるんだっけ。そりゃあ力強いわな。

「さっきAちゃん言ったでしょ。俺に幸せになって欲しいだけだって。なら俺から離れないで。それと……」

それと？
私が聞き返そうとすると、フジ君は続けた。

「Aちゃんが幸せなら、俺も幸せだから。
Aちゃんが笑顔になれるように、俺にも手伝わせてくれないかな？」

咄嗟に顔を上げれば、フジ君はいつもの優しい笑顔で微笑んでいて、思わず私も微笑んだ。
それを見てか、彼は嬉しそうに笑う。

「良かったぁ、やっと笑ってくれたね」

「ごめんね、フジ君。私、無いとは分かってたけど、疑ってた。万が一のことを考えると不安で仕方なくて。私、重いよね。ごめんね」

こんな素敵な人を疑うなんてどうかしている。
そんな風に、昨日の自分を叱ってやりたい。

「いや、あの状況見れば、誰でも疑うよ。むしろ俺だって疑ってたよ？キヨと何かあったのかなって」

そういえばあの日、私はキヨと一緒にいたんだった。

「ないないないっ！！私はフジ君一筋だから！！」

必死こいて否定してから気が付いた。
私、相当恥ずかしいこと言ってるな。

「ふふ、ありがと。俺もAちゃん一筋だよ」

フジ君は頬を少し染めてから微笑んだ。
その笑顔が、私は大好きだ。
だから見れただけで、私も笑ってしまう。

こんなこと言い合って、どこのバカップルだよと思うかもしれない。
しかし、バカップルだろうがなんだろうが、この人は私の自慢の彼氏だから。