お隣さんが不審者なんですが【fj】 (ページ17)

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お隣さん、十五日目。ページ17

「ごめんね、わざわざ」

「気にしないでいいよ」

朝ご飯の支度をし掛けていたが、まだ皿を出した程度だったからよかった。

「椅子ないから、床に座ってもらうことになるんだけど……いいかな」

そう言いながら、小さなお盆にお茶を淹れたコップを二つ乗せ、机に置いた。
椅子も買っておけばよかったかもなぁ。

「あぁ、大丈夫。むしろ、気遣ってもらっちゃってごめん」

「謝ってばっかじゃん。別にこれくらいのことは当たり前だし」

苦笑しながら彼の額を軽く小突けば、ずっと笑っていなかった彼の表情がいくらか和らいだ。

「……それじゃあ、話なんだけど」

お盆を傍らに置き、私はフジ君の真向かいに座った。
すぅ、と息を吸い、彼は口を開いた。

「俺は、Aちゃんに迷惑掛けたくないんだ。でも、すごく優しくて可愛いAちゃんから離れたくなくて、ずっと秘密にしてたことがあって。その事については謝らせて欲しい」

すまなかった、とフジ君は申し訳なさそうに一礼する。秘密にしてた、か。私はよっぽどの事じゃなきゃこの人から距離を取ろうと思わないけど……

「……それで、本題は？」

「……俺は、ゲーム実況者なんだ。実は、前の家からこっちに引っ越してきたのも、視聴者に住所特定されて、自宅に手紙とか凄い送られて。
ついには、直接訪ねてきたりもした。それが、俺としては怖くって。だから引っ越してきたんだ」

ゲーム実況者。
聞いた事がある。
その殆どがニコニコ動画及びYouTubeで活動している。
有名どころのゲーム実況者なら、恐らく巷のアイドルに引けを取らないほど人気があるだろう。

「まだバレてないからいいけど、バレたら今度は、きっとAちゃんの身が危ないと思うんだ。
……だから、その」

「私は」

「……え？」

咄嗟に言うが、そこから先が出てこない。
涙声になりかけているフジ君が、不思議そうに私を見た。

「私は、フジ君がゲーム実況者だろうと、『友達』を辞める気は無いよ。自分の身が危ないって言っても、私これでも護身術は心得てるから。
だからその先は言わないで。これからも仲良くしてよ。私から離れようとしないで」

別れ際の恋人じゃないんだから、と私は心の中で呆れてしまった。自分自身に。
フジ君は呆気に取られてこちらを見ている。
そりゃそうだ。ドン引きだろ、こんなん。

「……ありがとう、Aちゃん」

その声は、今度こそ涙声になっているようだった。