夏の匂い ページ8
¯¯¯
.
あの日の夜、
樹くんは私と乗る予定だったバスに一人で乗り、
東京へと戻ったのだという。
海からさほど遠くない、母親と二人暮しの家。
樹くんは、久しぶりに私の部屋に入る。
「全然、変わってないな 」
懐かしそうに言うもんだから、
また涙が零れそうになる。
彼と過ごしたあの頃は、
この部屋で一緒にアイスを食べながら宿題をしたり
暑いのに肩を寄せあって映画を見たり
この部屋にも沢山思い出は詰まっていた。
もう二度と、会うことは無いと思っていたのに · · ·
「A、突然会いに来てごめん、」
隣に座る彼は、私の方を向き直して頭を下げた。
謝るのは私の方なのに、
樹くんは何も悪くないのに。
そう言おうとしても、
喉がつっかえて何も言えない
そんな自分が凄くもどかしくて
腹立たしかった。
「A、今 幸せ?」
彼は、私の手を取ってそう言った。
「 · · · もう二度と会えないと思ってた人に会えたから、幸せだよ」
この言葉に嘘はない。
樹くんが、私のことを思ってわざわざこの島に会いに来てくれたって、自惚れて良いのかな、
.
¯¯¯
571人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ