３０話 ページ31
ようやくドックさんが止まったのはガレージの中だった。彼の尊敬の声も鬱陶しいようでこちらを向かず、"出て行け"と厳しい言葉をかける。
「まだ全然衰えてないんだね！」
「出て行けと言っている。」
「でも、僕はレーシングカーでドックも…年取ってるけどレーシングカーで要するに同じだよ！」
「俺たちは同じじゃない！！わかったらとっとと出て行け」
「ドックほどのレーシングカーがなんで全盛期に辞めちゃったの！？」
扉を閉めようとするドックさんに彼は負けじと食い下がる。そして、ドックさんが一番触れて欲しくなかっただろう事に触れてしまった。顔つきも声色も変わり淡々と説明していくドックさん。灯りをつけたその場所には1954年に起きた大事故の新聞の切り抜きが貼ってあった。
「好きで辞めたと思うか？…俺は捨てられたんだ。修理が済んで戻った時には歓迎されると思ったらこう言われたよ。お前は終わったって。皆は新人に夢中になってた。俺はまだ走れたのに」
ドックさんの話が自分と被り、心臓が締め付けられる。私と同じ、志半ばで引退したレーサーだからだ。
今現在注目されている彼とは圧倒的な差がある。
「それを飾ってあるのは二度と戻ろうと思わぬようにだ」
冷たく言い放ったドックさんに彼は負けじと言い返す。そいつらとは違う。そんな奴らじゃないと言った。
「そうか、じゃあ自分以外の誰かのために何かした事はあるか？」
ドックさんの質問に彼は答えられない。今まで、この町に来るまで本当にたった一人だったのだ。私やマックがそばにいたとしても友達という友達のいなかった彼には、そんなこと出来なかった、いやする機会すらなかったのだ。
「ここの連中はいい奴だ。思いやりに溢れている。信用できん奴に振り回されたら可哀想だ」
”信用できん奴に振り回されたら可哀想”その言葉を聞くと彼は俯いていた瞳をあげる。そしてドックさんに食ってかかった。
「あんたはどうなんだよ！長いことみんなと一緒にいるのに、正体も教えないで自分のことしか考えてないのはそっちだ！！」
ドックさんは思わずたじろぐが"さっさと道を直して出て行け"と言い、踵を返した。私たちの間に静かな時間が流れる。
彼は考える素ぶりをすると思いついたというように私を見つめる。きっと私たちが考えている事は同じだろう。
『なんでもやるよ？』
「ありがとう」
【この町の皆さんに恩返しをしよう】
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 19人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぷりん - 本当ですか？！楽しみにお待ちしてますね！！！.ﾟ+.(´∀｀*).+ﾟ. (2021年12月1日 17時) (
レス) id: bf5b200b30 (このIDを非表示/違反報告)
りのりの(プロフ) - ぷりんさん» コメントありがとうございます。最高と言っていただけるなんて…とても嬉しいです！今回の夢主ちゃんですね…！次回作の意欲はありますので、スローペースではありますが頑張ろうと思います！！ (2021年11月30日 15時) (レス) id: f39ba9092d (このIDを非表示/違反報告)
ぷりん - 私は最近カーズを観てハマり、りのりのさんの作品を拝見させて頂きました！最高です！是非カーズ2やクロスロードも、今回の夢主ちゃんで書いてください！応援してます！！ぁ、今作の続き…その後も気になってます|ω・`) (2021年11月22日 21時) (レス) @page39 id: bf5b200b30 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：りのりの | 作成日時：2020年10月28日 0時
