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「よーっしゃ、良い感じ。じゃあもう1戦行くか」
時刻は午前2時を回った頃。俺は目の前の四角い画面に釘付けになりながら、設置されたマイクに一人話しかけていた。
目の前の四角い画面にずらりと並ぶ白い文字は見る間もなく上へ上へと流れていく。目で追うのも精一杯だ。
カーテンの向こうは真っ暗だけど、部屋が明るいから真夜中には感じない。むしろ、俺は朝方ではないし、今が朝のように感じるほどだ。
1日の大半をこの防音設備の整った配信部屋で過ごし、外にはあまり出ない俺にとって、朝とか、夜とか、そんな時間は関係なかった。
とりあえず今が楽しければいいや。
つか金持ちで俺のことを甘やかしてくれる石油王と付き合えたらなぁ。
そんなことをのんきに考えて生きていた。
今までは。
「・・・お?やべ、もう6時?朝じゃん!配信終わるわ」
俺が時計を見て慌てたように言うと、コメント欄はまた上へ上へと流れていく。
>"まだ"6時の間違いだろ
>最近朝になると配信終わるな
>対あり〜
流れるコメントを見ながら、目についたものを適当に拾っていく。
「"最近朝になると配信終わる"?あ〜、ちょっとね、規則正しい生活してみようかなって」
俺がそうおちゃらけた声で言うと、「夜通しゲームしてる段階で規則正しくはない」なんて正論をぶつけられてしまった。
そりゃそうだけど、なんて笑いながら、配信終了のボタンにカーソルを合わせた。
「んじゃ、またツイッターで告知するわ。対あり〜」
かち、とクリック音がして配信が終了すると、ふう、と息を吐いて背もたれに体重をかける。
くあ、と大きな欠伸をして、思わず眠ってしまいそうになるものの、頬を叩いて立ち上がる。
配信部屋を出て、少しだけ長い廊下を抜け、向かうはリビング。
扉を開けると、良い匂いとともにカーテンの開けられたリビングの眩しさが目に染みた。
「・・・また夜通しゲーム?」
「まーね。・・・はよ」
「ん、おはよう」
そんな会話を繰り広げる相手は、いわば俺のフィアンセ。
叶にも、誰にも言っていない、俺の秘密の1つ。
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作者名:ヨッコラセ | 作成日時:2022年9月7日 11時