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こんな状況になったら、誰でも期待してしまうのだろうか。それとも、俺だけなのだろうか。
「左馬刻さん?」
一郎の声が聞こえるが、左耳から右耳へと流れてまったく頭に入って来ない。
それどころか、向こうにはその気がないのかもしれないのにこんなに浮かれている俺もどうなんだ。
「悪い、ちょっと用事あるから帰る。絶対ついてくんなよ」
「え、ちょっと、左馬刻!」
止めるあいつらの声も聞こえなくて、とりあえず俺は自分の家に帰ることにした。
心なしか少し速足になってしまって、気が付いたら家についていた。
「‥あ」
家の前、玄関の扉に背中を預ける形でしゃがんでいる男には、見覚えがある。
金髪も、ピアスも、気怠そうな表情も、何もかも変わってなくて、なんだか安心してしまう。
「左馬刻、久しぶり」
声を聞くのも、俺の名前を呼んでくれるのも、2年ぶり。
その少し低い声に安心しきってしまって、緊張が解けていく。
「‥孝太郎、何の用だよ」
「ん、これ。返しに来た」
「鍵‥」
差し出されたのは、、この家の鍵。俺が孝太郎に渡した、合鍵。
‥やっぱり、もう終わりにしようってことなのかもしれない。
「あと、これも」
「‥何、これ」
「鍵」
「見ればわかる、どこの」
「俺んち」
そういえば、孝太郎の家になんか滅多に行かないから合鍵持ってなかったな。
「‥俺、引っ越した」
「どこに」
「横浜」
「‥は?」
「少し広いとこ、借りた。一緒に住もう」
掌に渡された合鍵を乗せて、孝太郎はそう言った。
頭の整理がつかなくて、ただ黙っているしかなかった。
「‥あーちゃん、好きだよ」
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作者名:ヨッコラセ | 作成日時:2018年9月7日 23時