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日が傾き始めた頃、拠点から少し離れた位置をAは歩いていた。
どうせなら早いうちから練習した方がいい。
ちゃんと千空からの許可は得ていて、あまり遠くに行き過ぎないようにと釘を打ってから送り出された。
……はずだったのだが。
頭の中で運指の確認をしながら歩ていたために、拠点までの距離を気にするのをすっかり忘れていた。
今更後悔しても遅いかと開き直る。バレなきゃ問題は起きていないと同じなのだ。
辺りを見回し一息ついた後、Aはマウスピースに口をつけた。
「──ッ君、は……」
突然背後から聞こえた男声にびくりと肩がはねる。
後ろを振り返ってみると、Aから少し離れた木の下に青年が立っていた。
帽子の下から覗く白髪が、夕陽を吸い込んで杏色に光っている。
「あ、えっと……」
復活してからまだ日が浅いAの知り合いは石上村の人々と千空やゲン、杠くらいであった。
杠製であろう服で自分と同じ復活者なのだろうと推測できるが、たとえそうだとしてもこの先どうすることが良いのかAには分からなかった。
長く続く沈黙に耐えきれず、すり、とベルを撫でる。
こちらも夕陽をたっぷりと吸収していたようで、光り輝く金属の肌は生ぬるかった。
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作者名:susu'' | 作成日時:2022年8月17日 20時