Trauer ページ38
｢ なぁ、宮近。｣
｢ 嫌です。｣
｢ まだ何も言ってねぇよ。｣
宮近に話しかけたのは深澤だった。
アタッシュケース片手に宮近が教材を捲る机の隣に立った深澤は宮近の眼前に座り込んだ。
｢ クインケ操術、教えてくれない? ｣
｢ なんで僕なんですか。中村上等に聞けばいいじゃないですか。｣
宮近の辛辣な言葉に深澤は頭を掻いた。
｢ 捜査で忙しそうだから中々声掛けづらくってさ。宮近なら川島上等に色々教えて貰ってるし真面目だしさ、頼めるかなって。｣
｢ …嫌です。僕今日川島上等と約束してるので。今度一回声掛けてみたらいかがですか。それに今日はいつものところ、行かないんですか。 レストラン、ですっけ? ｣
｢ え、あ。んー、そうだね。また連絡入れてみる。……宮近、あんま無理すんなよ。｣
教材を睨みつけるように見つめていた宮近に深澤は苦笑いを見せた。無意識か意図的か、深澤は宮近の痛みの無い黒髪に手を伸ばした。優しく触れた手に驚いたように目を見開いた宮近に深澤は髪を乱した。
｢ 誰でもいいからさ、辛い時は頼れな。｣
周りの大多数が半喰種の施術を受けているのに対し適性が無いと判断された宮近は努力と経験で差を埋めるしか無かった。講義後も辺りが暗くなるまで講義室や訓練室に残り一人クインケを振るう姿を深澤は陰ながら見ていた。自分から望んで孤独をつくる宮近に深澤は手を伸ばそうとしていた。
｢ …別に、大丈夫なので。ほら、早く行ってください、｣
少し赤くなった表情を見た深澤は宮近に背を押されると
そのままアタッシュケースを手に講義室を出ていった。
宮近は張っていた気を抜くように肩を落とすと机に突っ伏し頭を抱え込んだ。
｢ ほんと調子狂うから辞めて………。｣
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作者名：夏向 | 作成日時：2020年7月19日 11時
